今年は、アトリエの中にカメムシがたくさん入ってくるので厳冬かなと思ったら、予想通りの寒さです。昔から、越冬のためにクサギカメムシが集まってくると雪が多いと伝承されていますが、どうやらその言い伝えは真実のようです。琵琶湖の北部地域は、積雪に見舞われているのでしょうか、比良山の頂は真っ白です。
ここにアトリエをつくる時、敷地の半分を覆っていたヒノキを全て伐採すると、私はすぐに雑木林づくりを開始しました。雑木林をつくる時は、上木(じょうき)と呼ばれるクヌギやコナラを植えます。クヌギやコナラは成長が早く、火力の強い薪や上質の炭が採れるので、昔の人にとっては大切な木だったのです。上木という愛称は、“上等の木”ということだと思います。クヌギやコナラの管理は、基本的にすくすくと生育するように手助けをする作業です。
私は、自分の背丈程の幼木を200本以上入手し、それらをヒノキの伐採後に植えてゆきました。スコップで穴を掘り、周辺をできるだけさくさくとした土に耕して、水はけを良くしました。肥料は特に使わず、表層に堆積していたわずかな腐葉土を混ぜる程度です。
植栽が終わった山肌は、黄土色の土がむき出しになって痛々しい様相です。こんなことで、ほんとうに美しい雑木林ができるのかしらと心配になったのを覚えています。幸い、長年通っていた雑木林でシイタケ栽培をしている方が、使わなくなった古いほだ木を、たくさん分けてくれました。そこで、半ば朽ちかけたこれらのほだ木を、トラックで何往復もして運び、林床に敷き詰めました。古いほだ木は、木々の成長に伴って数年かけてぼろぼろになり、土になじんで栄養になってくれました。
植栽が終わって3〜4年経過した頃、目を疑う光景が現れました。林床の朽木の中から、さまざまな植物が顔を出し始めたのです。顔を近付けてみると、葉の形がそれぞれ違います。いったい何種類の植物があるのでしょうか。発芽したばかりの葉を見ただけでは特定ができませんが、アケビ、コシアブラ、ヤブムラサキ、ヤマウルシなどが真っ先に目に留まりました。これらは、野鳥の糞(ふん)と一緒に地面に落とされて芽吹いたに違いありません。クヌギやコナラは、まだ背丈が3メートルぐらいなのに、鳥たちは、細々とした枝を足場として使ってくれたようです。
その他に、シュンランやギンランといった変わり種の植物たちも姿を見せてくれました。これらの植物は、長い間ヒノキ林の土の中で、忍耐強く光が当たるのを待っていたのではないでしょうか。感動的な出会いです。
私はただ、クヌギとコナラを植えて世話をしているだけなのに、いろいろな生命がまるで磁石に吸い寄せられるように集まってきました。
雑木林づくりは、里山の生き物たちとの共同作業、そんな思いが強くなりました。
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