新しい年が明けて、いよいよ本格的な冬がやってきました。定期的に寒波がやってきて、冷たい北風が田園を吹き抜けてゆきます。冬型の気圧配置になると、琵琶湖の北半分は雲に覆われて南半分が晴れ渡る、これがこの界隈の典型的な天候です。
晴れる日が続くと、スイセンの花が元気よく咲き出します。アトリエの中で真っ先に花をつけるのは、ロウバイやフクジュソウだと私はよく言うのですが、実はスイセンがトップランナーなのです。暖かい年はなんと12月から咲き始めます。
スイセンは園芸種として大変種類が多いのですが、一般的に「スイセン」と呼ばれるニホンスイセンが最も寒さに強いようです。冬のアトリエの敷地内にも、あちこちに顔を出します。積極的に植えた記憶はないのですが、いつの間にか土手などにも侵入して、小さな群落を作っています。たぶん、ガーデン作業で土を掘り返している時に、球根のかけらが紛れ込んだのでしょう。
スイセンは、ヒガンバナと同様に毒性がある植物でイノシシやシカの食害がないため、日当たりや水はけなどの条件が整うと自然に増えていきます。
私が積極的にスイセンを植栽したのは、エノキの幹の周辺です。スイセンは木々が落葉する頃に地面から葉を伸ばし始めます。スイセンの葉は真っすぐ天に向かうので、エノキの葉はスイセンの葉に引っかかりながら下に落ちて地面に積もります。エノキの葉を食べるオオムラサキとゴマダラチョウは幹を伝って地上に降り、落ち葉の下に潜って冬越しします。通常ですと落ち葉は北風に飛ばされやすいのですが、スイセンの葉が風よけになってくれるので、蝶の幼虫たちも安心して越冬できるというわけです。
スイセンは甘ったるい匂いがするので、切り花にして部屋に飾ると春の香りが充満します。菜の花にも似た香りで、私はとても好きです。ただ、こんなに甘くて良い匂いがするのに、昆虫たちが来ているところをほとんど見たことがありません。昆虫たちが活動しない冬場に咲くからなのでしょうか。
以前、スイセンの日本三大群生地として知られる淡路島を訪れたことがあります。お天気も良く気温も高かったのですが、艶やかに咲き誇る花畑には、昆虫は1匹も見られませんでした。
スイセンは、種類によって早咲き、遅咲きとバリエーションがあって、春をすっぽりとカバーしてくれる頼もしい植物。昆虫たちが活発に動き出したら、今年こそは念入りに観察して、スイセンに訪花する昆虫の姿をぜひ発見したいと思っています。
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