いよいよ夏本番! 盛夏になると、たくさんの生きものと触れ合っていた子供の頃を思い出します。当時は、魚や昆虫の図鑑を片時も離さずに眺めていたものです。
『ファーブル昆虫記』にもその頃に出合いました。小学3年生くらいだったので少年少女向けのものでしたが、フンコロガシやシデムシの話に魅了されました。そして、その後、大人向けのものも読むようになりました。『ファーブル昆虫記』は、奥本大三郎さんによる完訳が集英社から出版されています。この完訳は、昆虫をこよなく愛するフランス文学者である奥本さんの言葉がファーブルの文章と重なって、とても臨場感があります。
そのファーブルの博物館が、南フランスのセリニャンという小さな村にあります。ファーブルが晩年、昆虫記を書いた書斎や昆虫を観察した庭などがそのまま残っていて、私は今までに数回訪れています。いずれも夏場でしたが、村の外れをうろうろするだけで、『ファーブル昆虫記』に登場する主人公たちに簡単に出合えました。
最初に訪れた時は、ファーブルが透明水彩絵の具で描いたキノコの絵のオリジナルが展示されていました。この部屋にも何度も入らせてもらい、飽きることなく眺めたことを今でも思い出します。
博物館の中にある庭は当時のままで、センチコガネを飼育するための容器や、シデムシを観察するための箱も野外展示されています。庭の中ほどには水がためられた大きな鉢があり、水生植物が植えられていました。そこに、イトトンボがつがいになっていくつも飛んでいたのには驚きました。
ファーブルは、限られた敷地の中に昆虫たちを住まわすためのいろいろな工夫をしています。これは、長くフィールドワークをしてきたファーブルだからできる発想です。樹木や草、砂地や池など、細かな工夫の巧妙さは、実際にここを訪れないと、写真からではちょっと理解できないでしょう。
博物館の周辺には、何でもない草地のような場所がたくさんあります。空気が乾いているうえに、地面には白っぽい小砂利が多く、いかにも水はけが良さそうです。日本の園芸ショップで売られているハーブの仲間が、ここでは野草として生えています。こうした荒れ地っぽい土地には、蜂の仲間が好んでやってきます。実際に目を凝らして観察すると、ジガバチなどの狩り蜂や、ハキリバチなどの花蜂の仲間がいっぱいいます。それも種類がとても多いことに驚きます。私が住んでいる琵琶湖の辺りでは、決して見ることができない環境なので感動しました。
「昆虫たちが集まる庭をつくりたい」。そんな私の願いは、ファーブルの庭が原点にあるのかもしれません。
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