今年もアトリエのある仰木(おおぎ)地区の「光の田園」に秋がやってきました。近年は温暖化の影響でしょうか、9月になっても夏のように暑い日が続くことが多くなり、雑木林の木々の葉はまだまだ緑濃く、季節の変化に乏しいのが残念です。一方、棚田は稲穂が実るので一面黄金色になり、視覚的に誰もがわかる秋を運んでくれます。田んぼは日本人にとって、季節の変わり目を知るとても大切な環境であることは確かです。
そんな頃に農道や土手を歩いていると、足元から大きなバッタが飛び立ちます。人の目線より低い位置で数メートルくらい飛翔して、すぐに草に止まるバッタもいますが、いきなり翅(はね)をはばたかせて、青空を背景にダイナミックに飛び上がるバッタもいます。元気なこのバッタは、たいがいはトノサマバッタです。トノサマバッタは強い後ろあしで地面を蹴り上げて跳躍し、その勢いを使って翅をはばたかせて遠くまで飛んでいきます。一度に50〜100メートルくらいは飛ぶのですから、すごい飛翔力です。
舞い上がったトノサマバッタが農道の脇に降りました。地面の土がむき出しになった場所がお気に入りのようで、母虫(メス)は腹部を土中に差し込んで産卵します。
子供の頃、自宅の近くに米軍基地跡の広場があって、そこにトノサマバッタがたくさんいました。捕まえようとしてもトノサマバッタはとても敏捷(びんしょう)で、捕虫網の射程圏内に入る前に気づかれてしまい、何度悔しい思いをしたかわかりません。そのうちに、捕獲のコツとして、トノサマバッタが着地する場所を正確に突き止めないことにはだめだということを知りました。まさに、人と昆虫との知恵比べなのです。
ところで、バッタといえば、アフリカで猛威をふるっているサバクトビバッタの大発生が今年も話題になっています。サバクトビバッタは半砂漠地帯にすむバッタで、普段は群れをつくらずに単独で暮らしています。ところが、乾燥している大地に雨が降って草が茂ると、母虫たちは草を食べてしきりに産卵するようになります。そして、いっせいに幼虫たちが誕生して過密状態になると、次の世代にはバッタの体に変化が起こり、大群で移動する「移動型」になります。移動型のバッタは、体のわりには翅が長く、長距離飛翔に向いた体になって、なんと1日に100キロ以上も飛び続けることができます。
日本のトノサマバッタもサバクトビバッタと同じように、環境に著しい変化が起こると大発生します。30年以上前に、私は鹿児島県馬毛島(まげしま)でトノサマバッタの大群に出会いました。太陽の光が遮られるほどに過密に飛翔している姿は、普段接している温厚なトノサマバッタとは別の生きもののようで怖くなりました。トノサマバッタも移動型になる能力を秘めていることに驚きました。
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