少し暑さがおさまってきました。以前は、9月になると涼風が立って季節感を味わえたのですが、ここ10年くらいは夏の光がそのまま居座っているようにも思えます。
とはいえ、黄色くなった田んぼを眺めていて思い浮かぶのは、味覚の秋のこと。その王様といえば、やはりマツタケでしょうか。ただ、マツタケは大変貴重な食材。高級料理店にでも行かないとなかなか香りの良いものにはありつけません。
数年前、琵琶湖の北部地方にマツタケが採れるところがあると聞いて訪ねましたが、空振りでした。山歩きの好きな信頼できる人の情報だったのですが、里山は、私たちが想像している以上にやせ細っているようです。
昨年は、マツタケを採るために環境を整えている人が長野県にいることを知り、その方のもとへ出かけました。長野県は父方の故郷で、小学生の時にマツタケ狩りをした場所です。そのとき籠(かご)に山盛り収穫したのを覚えています。松林の中ですき焼きをしてくれたのですが、具のほとんどがマツタケ。なんとも夢のようにぜいたくな体験で、それ以来、野生のマツタケには出会っていません。
お会いした長野県のマツタケ採り名人は、里山に精通していました。マツタケのことを知り尽くして環境を整備しているのです。名人に言わせれば、整備というよりは、「昔していたことを今でもしているだけ」なのだそうですが、普通はそれがなかなかできません。
マツタケは、アカマツの根に寄生する菌根菌で、菌糸が地上に伸びてキノコになったもの。なので、アカマツがないと出てきません。この菌を生育しやすくするためには、地上の落ち葉を掻き取り、腐葉土を作らないことが肝要だと言われています。昔の人たちは、畑や田んぼの栄養補給に腐葉土が欠かせなかったので、丹念に落ち葉掻きをしました。別にマツタケを採ろうと思ってやっていたのではないのですが、結果的に副産物に恵まれたのです。
名人には、夏にアカマツ林の落ち葉掻きをする時と、秋になってマツタケを収穫する時の2回、山を案内してもらいました。感動したのは、なんと言ってもマツタケの姿に再会した時です。名人が指差すそこかしこに、マツタケが茶色い傘を広げていました。名人が採っても良いと言うので、私は写真を撮るのも忘れて、林床に四つんばいになりました。顔を近づけるとコクのある秋の香り。心の中に小学生の頃のあの体験が蘇ってきました。
名人には、山のことについていろいろと伺いましたが、昔の人たちがいかに里山を利用しながら生きていたかということを改めて知りました。マツタケを普通に味わおうと思ったら、名人が一年を通してやっている里山の管理をしないといけません。それと何より、自分がそこに生かされているという感謝を忘れてはいけないのだろうと思います。マツタケ山よ、帰っておいで!!
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