冷たい風が田園を吹き渡るようになりました。比良山地(ひらさんち)は真っ白になって、存在感たっぷりです。
アトリエの南側にあるアプローチやガーデンエリアは、真冬でも風当たりが弱く、お天気が良い日は日光がたっぷりと当たって暖かさを感じるほどです。
こんな頃、アトリエのテラスでは採取した葉や種子などを乾燥させてお茶をつくります。カリン、柿の皮、ハーブ類など何でもありなのですが、中には変わった植物もあります。それはゲットウ(月桃)です。
ゲットウは、日本では沖縄、奄美大島、九州南部などに自生する植物です。成長すると高さが2メートルほどにもなり、葉が大きく、まるでショウガのお化けのような姿です。夏には、花芯が赤と黄色で外側が白色という可憐な花を咲かせ、結実すると緑色の提灯(ちょうちん)のような実をつけます。それが秋になるとオレンジ色になり、冬が近づくと縦に炸裂して中から種子が見えてきます。
ゲットウは有用植物で、薬草になったりハーブの代わりをしたり南国では愛されています。沖縄に行くと人家の周辺に必ず植えられていて、いかに生活の中に根ざした植物であるかをうかがい知ることができます。
このゲットウが私のアトリエにたくさんあります。「滋賀県なのによく育ちますね」と言われるのですが、地植えに耐えるようになるのに10年以上かかりました。最初は石垣島から種を手に入れ、発芽させて幼木を植木鉢に植えました。夏は庭に出し、冬になると農具小屋に入れることを繰り返して株を大きくしていったのです。農具小屋は屋内といえどもけっこう低温なので、我が家のゲットウはこの過酷さに鍛えられてだんだん寒さに強くなっていったようで、何年か経過して思い切って地植えしました。いくつかは凍結などで枯れてしまいましたが、南側に植えたものは見事に冬を越しました。冬に地上部は枯れますが、春になるとみずみずしい若葉を広げるようになったのです。
最初に新芽を見た時には感動で胸が高鳴りました。熱帯の植物が自分のアトリエの庭に根づくとは、なんてうれしいことでしょう。用心のために数株だけは鉢植えにして屋内に置くようにしていますが、地植えの株も毎年勢いよく葉を茂らせてくれます。
ここ数年はゲットウを使っていろいろと楽しんでいます。一つは葉や種子を乾燥させてお茶にすること。ゲットウ独特のエキゾチックな香りがしてなかなかいいものです。また、葉のついた茎を切ってそのままお風呂に入れることもよくやります。分厚い葉はお湯に浸ると緑色が冴えてとても美しく、疲れが癒やされます。
小雪がちらつく風景を眺めながら、南国の香りがするお茶をいただくのは、なんとも贅沢なひとときです。