やっと春らしくなってきました。雑木林の木々も新芽がほころび、種類によっては若葉がどんどん広がっているものもあります。アトリエの庭では、モンシロチョウが飛び交い、こぼれ種で成長した菜の花でさかんに蜜を吸っています。
こんな頃、レンゲの花よりもひと足先にピンク色の可愛い花を咲かせる植物があります。それは、ホトケノザとヒメオドリコソウです。どちらも花が小さくて背丈が低いので、よく見ていないと見逃してしまうかもしれません。そして、あまりにもどこにでも咲いているので、農家の人たちにはただの雑草として扱われ、話題にならないことがほとんどです。
しかし、かがみこんで花をじっくりと観察してみると、何とも愛らしい姿をしているではありませんか。ホトケノザとヒメオドリコソウは花がそっくり。飾りをつけたカップのような姿をしていてとてもきれいです。ただし、ホトケノザは茎の上の方に、立ち姿勢で花がついているのに対し、ヒメオドリコソウは葉っぱの間から横向きになって花が顔を出しています。そのせいかヒメオドリコソウの方がおしとやかで繊細なイメージがあります。
両者は同じシソ科の仲間ですが、もうひとつ忘れてはいけない種類があります。それはオドリコソウ。こちらはホトケノザやヒメオドリコソウに比べると大ぶりで、背丈は50センチくらいになり、花も大きくて大変魅力的な植物です。オドリコソウはかなり分布が広く、珍しい種類ではないのですが、見られる場所は意外に限られていて、フィールドでも毎年咲いている場所を確実に知っていないと花の姿を見ずに終わってしまいます。
オドリコソウは、アトリエの「オーレリアンの庭」には自生していなかったので、ずいぶん前に移植したことがあります。翌年には花を咲かせたのですが、2、3年すると茎が細くなり、やがて消えてしまいました。土の湿度が足りないせいか、あるいは、酸性とアルカリ性のバランスの問題かもしれません。
畑の土は酸性寄りですが、農家によっては畑に苦土石灰(くどせっかい)を常に施して土をアルカリ性にしている所もあります。ホトケノザとヒメオドリコソウはそんなことはお構いなしに精力旺盛で、本当に頼もしい植物です。
オーレリアンの庭では、今、ホトケノザとヒメオドリコソウの花にヒゲナガハナバチやヒメウラナミジャノメがせっせと通っています。両者とも昆虫たちにご馳走を提供してくれる貴重な花たちなのです。
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「オーレリアンの庭」
今森さんのアトリエの庭の通称。「オーレリアン」とは「蝶を愛する人」という意味で、庭には蝶や昆虫が集まる草花を植え、育てている。