猛暑が少し和らいだ頃から、田んぼが急に黄色くなり始めました。稲穂が重く垂れ下がっているので、今年も豊作ではないでしょうか。イネは本当に暑さに強い植物だと感服します。「オーレリアンの丘」では、クヌギの葉や地上の草たちはまだまだ青々としていて、夏模様が抜けきらない様子です。
そうした中で、秋の空気を感じ取っているのはタラノキではないでしょうか。木の先端からフサフサとした花の穂が膨らみ始めています。近づいて人の背丈以上に大きく育った葉の表や裏を観察すると、体長1センチ位の小さなカメムシに出会うことがあります。背中に黄色いハート文様をもったエサキモンキツノカメムシです。これは、神様のいたずらではないでしょうか。こんなおしゃれな昆虫が里山にいるなんて驚きです。私が子供の頃は、ハート虫と呼んでいたのを覚えています。
エサキモンキツノカメムシは、日本全国の里山環境に見られ、決して珍しい昆虫ではないのですが、いざ発見しようと探し回ってもなかなか見つかりません。その出合いは、いつも偶然やってきます。カメムシというと、大発生して農作物を台無しにしてしまうイメージがありますが、このカメムシは群れでいるところを見ることはなく、とてもおしとやかです。
この季節になると、オーレリアンの丘のタラノキを見上げて注意深く観察するようにしています。エサキモンキツノカメムシはタラの葉の汁を吸うだけでなく、たぶん、花の後にできる果実を楽しみにしているのかもしれません。
ところで、このカメムシは葉の裏に固めて産卵します。メスは卵塊の上に覆いかぶさるようにして保護する習性があり、卵から幼虫が孵化した後も離れません。ハート文様の姿にふさわしく愛情たっぷりの性質をもっているのが微笑ましい限りです。
秋に出合った成虫は、晩秋に風当たりの少ない落ち葉の下に潜り込んで越冬します。エノキの幹の根元に積もった落ち葉の裏に隠れているオオムラサキやゴマダラチョウの幼虫を観察している時に、脚を縮めて眠っているこのカメムシによく出合います。
木枯らしの吹く寒々とした風景の中でハート文様を見かけると、なんだか心が温まります。
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「オーレリアンの丘」
仰木地区の光の田園をのぞむ小高い場所にある農地。生物多様性を高めるための農地を目指して環境づくりを行っている。