朝夕めっきり涼しくなりました。比良山地(ひらさんち)の頂から始まった紅葉は、だんだんと下に降りてきて、とうとう「オーレリアンの庭」や「オーレリアンの丘」にもやって来ました。アトリエは雑木林に囲まれているので、晩秋はとてもきれいです。雑木林の木々は黄葉するものが多く、全体的に穏やかな色づきになります。その葉の一枚一枚を見ていると、山吹色のものや橙色がかったものなど豊かなグラデーションがあることに驚きます。
その頃になると、木の実たちも目立ち始めます。ガマズミ、ウメモドキ、オオカメノキなど赤い実をつける木々がとても多いのですが、中にはサワフタギのように真っ青な実をつける植物もあります。それから、忘れてはいけないのが、何と言っても美しい紫色の実をつけるヤブムラサキ。光沢のある艶やかな実は、どことなく日本らしさが感じられてとても雅です。
ヤブムラサキは、日本の温暖な地方に普通に見られる木で、背丈が2~3メートルの中高木です。日当たりのよい雑木林の林縁や林内に自生しています。初めに実が鮮やかに熟す頃はまだ緑色の葉がついているのですが、やがて黄色くなって落葉して実だけになります。ちょっと寂しい姿はなかなか風情があり、その頃には冷たい風とともに秋から冬へ移ろう季節となります。
落葉後の枝に実が残っている光景が見られるのは山の木の実が豊作な年で、たいがいはその前に鳥たちが食べてしまいます。ヤブムラサキの実はとてもおいしいようで、鳥たちは手ぐすねを引いて色づくのを待っているように思えます。やって来るのは、メジロを筆頭にヒヨドリ、シロハラなど。鳥たちがせっせと食べるおかげで、ヤブムラサキの種はいろいろなところに拡散されていくのです。
実際、オーレリアンの庭の雑木林でも、林床から芽吹くヤブムラサキはとても多いですし、オーレリアンの丘の雑木林づくりの時にも、わざわざ植える必要はありませんでした。実生(みしょう)で地面から顔を出す葉に注意して、それを刈り込まないように管理していけば、丈夫な木に成長してくれます。
ヤブムラサキの葉は、蝶の食草になっていることは知られていませんが、じつはヘルメット型をしたイチモンジカメノコハムシという甲虫の大好物です。このハムシは甲羅の縁が透けていて、中央が金色に光っているように見える風変わりな昆虫なので、ヤブムラサキの葉が茂っている季節にぜひ観察してみてください。
秋も深まり、ヤブムラサキの葉もすっかり落ちた今日この頃。今年も木の実を存分に楽しむ季節になりました。
「オーレリアンの庭」
今森さんのアトリエの庭の通称。「オーレリアン」とは「蝶を愛する人」という意味で、庭には蝶や昆虫が集まる草花を植え、育てている。
「オーレリアンの丘」
仰木地区の光の田園をのぞむ小高い場所にある農地。生物多様性を高めるための農地を目指して環境づくりを行っている。
実生
種から発芽して生長した植物のこと。
食草
その昆虫がえさとする特定の植物のこと。