玉ねぎを切るときに涙が出たり、目や鼻がつーんとしたりするのは、「硫化アリル」という物質が原因です。揮発性(蒸発しやすい)であるために、目や鼻を刺激するのです。したがって、硫化アリルが目や鼻に届かないようにすれば良いことになります。というわけで、先に挙げた「見ないようにして切る」「ゴーグルを使う」も、硫化アリルから身を守るという意味では理にかなっています。しかし、前者は危険なのでやめましょう! また、後者もいちいち面倒ですよね。実はちょっとした科学の知識でこの問題を解決できてしまいます。
硫化アリルは熱に弱い物質です。ですから、調理前に少しだけ、例えば電子レンジで1分くらい温めると硫化アリルが減り、揮発を抑えることができます。
また、硫化アリルは水溶性の物質です。ですから、水につけながら皮をむき、濡れているうちに玉ねぎを切ることも、揮発を抑えることにつながります。生の玉ねぎをサラダなどにするときに水にさらすのも、硫化アリルが水に溶けやすいという性質を利用して辛味を抑えているのです。
ただ、硫化アリルはビタミンB1の吸収を促進させて代謝を上げるお役立ち物質でもあります。ですから、必要以上に硫化アリルを減らしてしまうのはもったいない!
そこで、硫化アリルを減らさずに涙を減らすための良い方法を紹介しましょう。玉ねぎに限らず、物質は温度が高くなると揮発しやすくなる性質を持っています。ですから、玉ねぎを切る前に冷蔵庫で冷やし、冷たいうちに調理すれば、硫化アリルを減らすこともなく、つーんとした刺激も避けることができます。ただ、玉ねぎが常温に戻ってしまうと揮発が始まってしまうので、手早くがポイントになります。個人的には、この「切る前に冷やす」という方法が、一番手軽で効果的だと思います。
話は変わり、玉ねぎを加熱してしばらくするとその刺激はなくなり、甘い香りがしてきますよね。また、生のときは辛く感じるのに、火を通すと濃く甘くなるというように味も変わります。この甘味の正体は、「プロピルメルカプタン」という早口言葉のような名前の物質に由来すると言われています。それは砂糖の50倍も甘みを示す物質ですが、糖分ではありません。実は、涙の原因となるあの硫化アリルが加熱されて変化した物質なのです。このように加熱するだけで辛味である硫化アリルが甘味成分であるプロピルメルカプタンに変化するなんて、本当に不思議ですよね。
では、甘くなるとカロリーも上がるのかな?と思いますが、これは加熱する前後で変化ありません。また、プロピルメルカプタンは糖分のように消化吸収されてエネルギー源にならないので、糖分よりもカロリーも低くなります。
ちょっと余談になりますが、ニンジンも加熱するとこってりした甘みが出ますが、これは加熱して細胞壁が壊れ、細胞の中にある糖分が飛び出してくるからです。したがって、玉ねぎとは異なり、物質が変化したわけではありません。また、こちらも加熱する前後でカロリーは変わりません。
玉ねぎは、「辛み成分が甘み成分に変身する」という不思議な野菜です。「玉ねぎの科学」に思いをはせながら料理をしてみてはいかがでしょうか。