水が沸騰すると水蒸気になるというように液体が気体に変化します。これは、一つひとつの水の分子が、ぶんぶんと運動をしている状態です。しかし、勝手気ままに動き回っているわけではなく、それぞれの分子の間には「引力」が働いており、「ある程度」つながっています。この「つながり具合」は、分子の運動パワーと引力のバランスによるものです。液体がコップに入っている状態では形を保っていられても、コップの外ではこぼれて流れてしまうのもこのためです。また、沸騰も分子の運動パワーと引力のバランスによるものです。分子のもつ温度が高ければ高いほど、運動するパワーが大きくなり、水分子の引力の結合が切れてしまいます。これが液体が気体に変化する沸騰の仕組みなのです。
では、液体の水の温度はどこまで上げることができるのでしょうか。それは、「液体が沸騰を始めるまで」です。その「沸騰し始める温度」は、まわりの気体の圧力によって変わります。例えば、高山など圧力が小さいところでは、90℃以下の低い温度でも沸騰します。これは周囲から押される力が小さいため、分子の運動パワーが少なくても水分子の結合を切ることができるからです。しかし、圧力が大きい場所では周囲から強い力で押されているため、水分子同士の結合を切るにはかなりのパワーを必要とします。この原理を利用しているのが圧力鍋なのです。
普通の鍋は1気圧ですが、圧力鍋は2気圧ほどの圧力をかけています。2倍も高い圧力です。わざわざなぜそんな圧力を……ということですが、それは水が液体でいられる状態を100℃よりも高くするためです。鍋の中の圧力(正確には鍋の中の「空気」の圧力)が2気圧になると、沸騰する温度は120℃になります。普通の鍋では100℃ですから、20℃も沸騰温度が高くなります。このように圧力鍋の内部の温度が高いために短時間で料理をすることができるのです。
この圧力鍋が大活躍する料理が茶碗蒸しやプリンです。普通の蒸し器で作ると、かなり気を遣わないと「す」が立った状態、つまりボコボコと穴が開いてしまいます。これは蒸気が作ってしまう「穴」が原因です。卵のたんぱく質が固まるのは約80℃ですが、蒸気が出る温度と卵が固まる温度が近いために穴ができてしまうのです。しかし、圧力鍋では120℃になるまで沸騰しないので、かなり高い温度になるまで蒸気は出現しません。ですから、蒸気を逃がして温度を下げたり、内ぶたをしたりと、「す」を防ぐための様々な対策をする必要がなく、失敗知らずというわけです。
しかし、このように高圧をかけるということは、食品の組織を破壊するということでもあります。硬い牛のすじ肉も圧力鍋で簡単に軟らかくすることができる一方で、油断すると野菜の煮物などはすぐに崩れてしまいます。ですから、素材をそのままいかす料理には圧力鍋は不向きとも言えます。このように一長一短ありますが、上手に使えばおいしい料理を作ることができるのも、圧力鍋の科学の力と言えるでしょう。