卵の卵白を泡立て器で撹拌(かくはん)して、徐々に空気を混ぜ込んでいくと、最初は大きな粗い泡ができます。その泡は徐々に細かくなり、しっかりしたツヤのある気泡に変化します。しかし、メレンゲ 作りは、油分や砂糖の使用への制限など、生クリームの泡立てに比べると難しい作業と言えます。まずは、卵白に含まれるたんぱく質の「気泡性」と「空気変性」の二つの性質に注目しながら、メレンゲを「科学」していきましょう。
泡立てには「気泡性」が大きなポイント
泡立ては、液体の中に気体が分散した気泡性の状態です。この気泡を作るには、液体に空気を取り込むために表面張力を小さくすることが必要です。表面張力とは、別の物質と接しにくい度合いを示します。表面張力が大きいと液体が空気と接しにくいので、空気をたくさん抱え込むことが難しくなります。身近な例を挙げると、水が泡立ちにくいのは、表面張力が大きい物質であるためです。しかし、卵白には、表面張力を小さくするたんぱく質が含まれているので、たくさんの気泡を取り込むことができ、メレンゲを作ることができるのです。
泡立てを安定させる「空気変性」
卵白は、「泡を持続させる力」も備えています。空気に触れることで膜状に硬くなる成分オボアルブミンを生み出す「空気変性」によって、気泡を安定化させ、しっかりとしたきめ細かいメレンゲを作ることができます。
古い卵は、新しい卵よりも粘性が低く表面張力が小さいために泡立てやすいのですが、泡の安定性は悪くなります。また、泡立てるときに温度を高くすることでも表面張力が小さくなり、泡立てやすくなるのですが、やはり泡の安定性が悪くなります。したがって、安定したメレンゲを作るためには、新鮮な卵を使い、泡立てはじめは湯せんして温度を高くし、途中から冷やして泡の安定度を高めることがベストな方法と言えます。
このように「泡を立てる」と「泡を持続させる」ことは、相反する関係にあります。しかし、卵白に含まれるたんぱく質の「気泡性」と「空気変性」という二つの性質と温度の絶妙な関係が、メレンゲの泡立てに重要な役割を果たしているのです。
「油」と「砂糖」が邪魔になるのはどうして?
また、メレンゲを作るときのレシピの注意書きに必ずと言ってよいほど「泡立て器やボールに油分がついているとダメ」と記載されています。これは、サラダ油やバターなどの油脂が、卵白にできた気泡であるたんぱく質の膜を破壊するからです。
また砂糖も、卵白が空気変性を起こして膜状に固まるのを抑制する働きがあります。したがって、最初の段階から加えてしまうとなかなか気泡の膜を作ることができません。ですから、まずは卵白だけを泡立て始め、かなりしっかりと泡立った状態で一部の砂糖を加え、さらに泡立てながら残りの砂糖を少しずつ加えていきます。こうすることで、最も効率的に状態の良いメレンゲを作ることができます。しかし、ハンドミキサーを使って泡立てる場合、撹拌力が強いのですぐに泡立てが過剰になってしまう可能性があります。ですから、最初の段階から砂糖を加えておくなど、砂糖を加えるタイミングも重要な要素です。
「砂糖」と「酸」の良い働きとは?
しかし、その一方で砂糖は、きめの細かいしっかりしたメレンゲに仕上げてくれる作用もあります。砂糖は水を引き付ける力が強いので、できた気泡の安定性を高めてくれるのです。また、「酸」も泡立てを助ける作用があります。卵白は本来アルカリ性を示す食品ですが、中性に近づく方が泡の安定性が高くなります。ですから、少量のレモン汁を加えると泡の安定度が高くなります。また、シフォンケーキに、クレーム・タータと呼ばれる酒石酸水素(しゅせきさんすいそ)カリウムの添加物を加えることがあるのも、レモン汁と同じ働きがあるためです。
卵白と砂糖だけで簡単にできてしまうのがメレンゲです。ただ焼くだけでもクッキーになりますし、応用編としてはシフォンケーキもマカロンも作れます! 今までは、ちょっと面倒に思えたメレンゲ作りも、科学的に理解すると身近に感じ、作ってみたくなりませんか?
メレンゲ
鶏卵の卵白を泡立てた食材で、マカロンやケーキなど主に菓子などの料理に用いられる。砂糖の量や調理方法の違いにより、フレンチメレンゲ、イタリアンメレゲンゲ、スイスメレンゲなどがある。語源はスイスの都市メイリンゲン(Meiringen)と言われる。