砂糖の七変化「カラメル化反応」
まずは、「カラメル化反応」を科学してみましょう。砂糖の中の糖分子(単糖とも呼ばれ、これ以上分解されない糖)を加熱すると溶け始めます。この状態がおなじみの「シロップ」です。その後、砂糖は温度によって異なる化学反応が起き、七変化していきます。
まず、ゆっくりと色がついてキツネ色から濃い褐色へと変わっていきます。温度が高くなるにつれ、玉状の「ファッジ」、硬い玉状の「トフィ」、もろい状態の「ヌガー」、割れやすい状態の「ドロップ」、そして最終的には160度を超えて、糖自体が分解して不規則に結合する「カラメル」という褐色物質になります。お菓子で聞いたことがありますよね?
カラメル化反応は糖を高温加熱することで起こる脱水と酸化反応です。そのメカニズムは完全には解明されていませんが、糖が加熱されることによるフラン化合物の重合が有力な仮説です。しかし、加熱を続けるとあっという間に焦げてしまいます。したがって、カラメル化反応は難度の高い化学反応と言えます。
ちなみにカラメル化反応では、香りの化学反応も起こっています。初めは無臭で甘いだけですが、温度が高くなるにしたがって酸味や苦みが加わり、強い香りが出るようになります。これらの特性を生かして、ショ糖(砂糖)からのカラメルはプリンの風味付けなどのお菓子、ウイスキーや清涼飲料などに利用されています。また、ブドウ糖のカラメルは、しょうゆやソースなどに使われています。
料理で大活躍の「メイラード反応」
カラメル化反応と同様に加熱によって生じる褐変反応に、「メイラード反応」があります。パンの皮、クッキー、ビール、コーヒー豆、チョコレート、焼いた肉……など、数知れない茶色いおいしい食べ物はメイラード反応のおかげです。まさに料理にとって欠かせない化学反応と言えます。
これは、糖とアミノ酸を加熱することで褐色成分や芳香成分が生まれる化学反応で、ルイ・カミーユ・メラール(Louis Camille Maillard,1875~1936)というフランス人科学者によって1912年ごろに発見されました。香気成分だけでも、カラメル反応と似たカラメル臭、ナッツのようなにおい、パンやチョコレートのようなにおい、そして焦げ臭……と、何百種類もの反応物が生まれると言われています。酸素が関与しない非酵素的褐変化作用という点ではカラメル反応と同じですが、糖だけでなくアミノ酸が必要という点でカラメル化反応とは異なります。しかし、いまだにそのメカニズムははっきりとは解明されていない「おいしい謎」です。
その際に温度も重要なポイントです。肉の場合は、85~90度以上で反応が始まり、150度以上にならないとはっきりとメイラード反応が起きたとはわかりません。特にシチューやカレーなど煮る料理では焦げ目をつけることが難しいので、肉を鍋に入れる前に、炒めて焼き色を付けることでメイラード反応のおいしい味と香りが楽しめます。
料理の天敵「酸素的褐変反応」
しかし、私たちにとってはあまりうれしくない「褐変反応」も存在します。それは、リンゴ、じゃがいも、アボカドの切り口が茶色くなってしまう「酸素的褐変反応」です。これは、これらの野菜や果物に含まれているポリフェノールが、空気中の酸素と結びついて酸化するためです。
これを防ぐには、リンゴを塩水に入れたり、じゃがいもを水につけたりして切り口が酸素と触れるのを阻止します。塩水の場合は、塩がポリフェノールのまわりを取り囲むので、より効果的です。しかし、アボカドを水や塩水につけるのは難しいので、代わりにレモン汁で防止することができます。レモン汁に含まれるビタミンCが、ポリフェノールの代わりに酸素と結びついて酸化し、変色を防いでくれるのです。
このように茶色い食べ物には「褐変反応」という科学が潜んでいます。お菓子、ビール、パン、お肉など、おいしい味と香りの正体が化学反応であることが分かると「茶色」を見直してしまいますよね。科学的に理解したら、「茶色い食べ物」がもっとおいしく感じられませんか?