牛乳の中には数マイクロメートル(μm、1マイクロメートル =1000分の1ミリメートル)の脂肪球がただよって浮いています。脂肪球は表面を皮膜で保護されているために水分から分離せずに、水分の中でうまく安定しています。本来は水分と油分は相性が悪いのでドレッシングのように分離しますが、この分離は水分と油分とは極性という性質が大きく異なることが原因。極性の違う物質同士は反発し合うので、水分と油分に分離してしまうのです。では、牛乳はなぜ分離しないのでしょうか?
牛乳の中に含まれている脂肪球は、普通の植物油と異なり、非常に細かい粒子状になっています。そして、この粒子のまわりをリン脂質やたんぱく質がうすい皮膜のようにおおって保護しています。このリン脂質やたんぱく質が水分と油分の仲介役をして脂肪球を水分の中に閉じ込めるため、分離しないのです。このように牛乳は、脂肪球が安定して水分の中に分散されています。
実は、搾りたての牛乳の脂肪球は大きいのですが、現在は牛乳を製造する段階で「生乳」に含まれる乳脂肪分を機械的に砕いて、直径1マイクロメートル以下の大きさに調整する加工がされています。これを「均質化(ホモジナイズ)」といい、これによって牛乳の中の脂肪球はさらに安定します。
では、生クリームやバターとの違いは何でしょうか? 結論から言うと、脂肪の量の違いです。つまり脂肪球の量の違いによって、牛乳は生クリームやバターに変化します。しかし、市販の牛乳は、先に述べたように脂肪球を安定化させる均質化をしているので、残念ながら生クリームはできません。しかし、搾っただけの牛乳は脂肪球の大きさが不揃いで分離しやすいので、加熱と殺菌をし、そのまま置いておいたり、冷やしたりすると上に生クリームが浮いてきます。また、生クリームも脂肪球が多いので、家庭でも生クリームからバターを作ることができます。では、ここで少し科学の実験をしてみましょう。
動物性脂肪40%以上の生クリームをきれいに洗ったペットボトルに入れて、一生懸命振ると、ジャバジャバ言っていた音がしなくなります。これがケーキやパフェでおなじみのホイップクリームの状態です。動物性脂肪分の多い生クリームはおいしいですが、自分で泡立て器を使ってホイップクリームを作ろうとするのは意外に難しいものです。油断すると泡立てすぎてしまい、ふんわりしたホイップクリームではなく、もろもろの荒い状態になってしまいます。これは、生クリームから脂肪分だけが集まって、液体の成分と分離しているためです。
もし、ホイップクリームを作ろうとして、このようになってしまったら、既に脂肪球が分離した後の状態です。ですから、もうホイップクリームを作ることができません。しかし、捨てるのはもったいない! ならば、手作りバターを作ればいいのです。さらに泡立てると固体と液体とに分離しますが、ここから液体だけ取り出せば、残りの固まった脂肪分がバターです。ちなみに、液体はバターミルクといい、飲んでも問題ありません。日本ではあまり聞き慣れませんが、特にヨーロッパでは手軽に手に入れることのできる食材です。
脂肪球の量の違いだけで変貌する乳製品。さらに発酵させると、チーズやヨーグルトにもなります。スーパーで見かけたときは、脂肪球を思い浮かべてみると、乳製品が今までと違って見えるかもしれません。