また、初産年齢の上昇や出産回数の減少、初経年齢の低下などによって月経回数が多くなっていることも乳がんの発症リスクを上げています。たとえば、35歳以上で初産の人と未産の人は同程度に発症リスクが高まります。2019年度の統計では、第一子出産時の年齢が40歳以上の日本人女性は約36%に上り、40歳時点で子どもを産んでいない女性は30%弱です。平均初経年齢は2018年の調査では12歳2カ月と、1960年頃より1歳程度早くなっています。
乳がんの5年生存率は90%以上
比較的若い年代の患者が多いのも、乳がんの特徴です。たとえば、胃がん、大腸がん、肺がんでは、年齢が上になるにしたがって罹患率も増加していきますが、乳がんの場合は45〜49歳と、60〜64歳という2つの年代にピークが見られます。
患者数が増加している分、乳がんで亡くなる方の数は増えていますし、有名人が乳がんで亡くなると大きく報道されますから、「乳がんは怖い」というイメージが強いかもしれません。乳がんと診断された方の多くが大きなショックを受けますが、今はほとんどの乳がんはステージ(病期)ⅠやⅡと比較的早い段階でみつかり、治療方法も非常に進化しているので、乳がんの5年生存率は90%以上と非常に高い確率です。また、抗がん剤は副作用がつらいと思っている方も少なくありませんが、吐き気どめの薬も格段に進歩したため案外大丈夫だったという方も多いです。乳がんになっても、治療を受けて元気に生活している方がたくさんいらっしゃるということを、ぜひ知っていただきたいと思います。
定期検診のメリット
世界各国と比べ、日本における乳がん検診の受診率は約半数とけっして高くはありませんが、早期発見・治療に結びつけるためにも、検診はとても大切です。原則40歳以上の方を対象に2年に1度、公費補助で検診を受けることができ、お住まいの自治体にもよりますが、費用は無料〜1000円程度です。
検診で見つかる80%以上は、ステージⅠに相当する2センチ未満の早期乳がんです。一方、自分で乳房の異常に気づく場合、その50%以上がすでに2センチ以上の大きさのがん(ステージⅡ以上)になっています。
がんがまだ小さい早期のうちに見つけられれば、治る確率が高くなるのはもちろん、患者さんにとって治療の負担が軽くなるメリットがあります。たとえば、手術で乳房を全摘しなくてもすむかもしれません。手術後に、放射線治療や抗がん剤を使用せずに治療を終わらせることができたり、抗がん剤やホルモン剤を使う期間を短縮できたりする可能性も高くなります。
乳がん検診では、乳房を片方ずつ2枚の板で挟んでレントゲン検査を行うマンモグラフィ、あるいは超音波で画像検査を行います。これまでは医師が乳房の異常がないか確認する視触診が広く実施されていましたが、現在はより精度が高い画像検査のみの検診が推奨されています。
「マンモグラフィは痛いから検診を受けたくない」という方は、痛みのない超音波検査や乳房を挟まない「乳房専用PET」(PET=positron emission tomography、陽電子放出断層撮影)などを検討されてもよいでしょう。ただし、その場合は基本、全額自己負担になります。また、40歳未満の方が受ける検診も、やはり公費による補助はないのが原則です。補助を受けるには、検診の効果が実証されていなければならないからです。検診の目的はがんを「見つける」ことではなく、乳がんによる「死亡率を減らす」ことで、その効果が証明されているのは今のところ、40歳以降のマンモグラフィのみとされています。なお、しこりなどなんらかの症状があって医療機関(乳腺科)を受診する場合は、検査に健康保険が適用されます。