高濃度乳房には超音波検査も検討を
高濃度乳房(デンスブレスト=dense breast)といって、乳房内の乳腺の密度が脂肪分に比べて濃いタイプの方は、マンモグラフィの画像が全体的に白っぽく写ってしまい、がんを見つけにくいことがあります。日本人女性には高濃度乳房が多いと言われています。特に若い人の割合が高いのですが、出産経験がない女性や、授乳経験がない、もしくは短い女性は70〜80代でも高濃度乳房であることもあり、一概には言えません。
日本人の40代女性7万人を対象に行った臨床試験では、マンモグラフィだけを受ける方と、マンモグラフィに超音波検査を追加して受ける方とで比較したところ、後者では、前者の1.5倍の乳がんが見つかったという結果が出ています。超音波検査を併用することで死亡率が減少するという効果は明らかになっていないため、超音波検査は市区町村の乳がん検診の公費補助対象となっていない場合が多いですが、40代女性がより高い確率でがんを見つけたいのであれば、マンモグラフィと超音波検査を両方あるいは1年おきに受けるという考え方もあるかもしれません。
なお、アメリカの半数以上の州では、検診の受診者が高濃度乳房だった場合、マンモグラフィの結果とともにその情報を提供することが法律で定められています。日本でも、医療機関によっては情報提供を行っているようですが、国による方針などはまだ定まっていません。超音波検査を併用するかどうかの判断材料とするためにも、こうした試みがさらに広がればいいのではないかと思います。
遺伝性乳がんを注意したいケース
39歳未満で乳がんになる方は全体の約5%と少なく、むやみに心配する必要はないでしょう。若いときから検診を受けることは、治療の必要のないがんまで見つけてしまう、いわゆる過剰診断などの問題を生むことにもなります。
例外は、母親や姉妹などの近親者に乳がんや卵巣がんになった方がいるというケースです。たとえば母親が40歳で乳がんを発症しているなら、それより5~10歳若い年齢から検診を始めることが推奨されています。40歳未満の検診は自費になってしまいますが、マンモグラフィは受けずに超音波検査だけを毎年受けるのがよいと思います。
男性も、母親などの近親者に乳がん患者がいる場合には、乳がんになる可能性があります。男性の乳がんは男性1000人のうち1人、乳がん患者全体のうち1%とごくわずかで、多くが60〜70代に発症します。男性の胸は女性の胸より変化がわかりやすいですから、胸、特に乳首の下あたりにしこりを発見したら、乳腺科を受診しましょう。治療法は女性と同じで、やはり発見が早ければ早いほど治癒率も高くなります。
数年前、ハリウッド俳優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝子の病的変異で将来的に乳がんになる確率が非常に高いとの診断を受け、予防的観点から乳房を切除したことが話題となりました。こうしたタイプの乳がん(HBOC:hereditary breast and ovarian cancer syndrome、遺伝性乳がん卵巣がん症候群)は日本人乳がん患者全体の約3〜5%と言われ、発症年齢が30~40代前半に多く、通常の乳がんより若いという特徴があります。HBOCかどうかは、血液検査で調べることができます。ご本人が乳がんか卵巣がんを発症されているなど、いくつかの条件があてはまる場合は検査が保険適用になります。既にがんを発症していても、HBOCだと判明することで、その後の治療で適切な対処をしたり、近親者に遺伝カウンセリングを受けてもらうなどの対策を立てたりすることができます。
「ブレスト・アウェアネス」で普段の乳房の状態を把握
2年に1度の検診をまじめに受けていても、見えにくいがんもありますし、検診と検診の間で見つかる「中間期がん」も、なかなかゼロにはなりません。乳がんは比較的進行が遅いですが、中には大きくなるスピードが速いタイプのものもあるので、検診とは別に月に1度、自分で自分の乳房をチェックするのが理想的です。このチェックは、20~30代のうちから習慣化していただければと思います。
乳房のチェックと言っても、難しく考える必要はありません。「ブレスト・アウェアネス」、つまり普段から自分の乳房に関心を持つことが大切です。触るたびに何か異常がないかと一生懸命探すのではなく、毎月触って普段の状態を知っておけば、「あれ、今までなかったものがある」と、変化に気づきやすくなるでしょう。閉経前の女性は、生理が始まって10日頃の乳房の張りが少ない時期に、閉経後であれば自分で日を決めてチェックし、何かおかしいと思うことがあれば放置せず、乳腺科を受診してください。
乳がんの症状で一番多いのは、しこりです。まれに、しこりをつくらないタイプの乳がんもあり、この場合に見られる症状は、腋(わき)の下のリンパ節の腫れや乳頭からの出血、びらんなどです。乳房の痛みから「乳がんではないか」と病院に来られる方もいますが、がんのしこりは基本的に痛みがないのが特徴で、痛みがある場合はおそらく乳腺症など他の病気だと考えられます。
手術には様々な方法がある
乳がんになっても、できれば乳房を切除したくないという方もいらっしゃると思います。胸に対する思い入れは人によってかなり違いますが、好き好んで乳房を切りたいという女性は少ないでしょう。しかし、今のところ、乳がんの基本となる治療は手術です。薬物療法や放射線治療を行うとしても、必ず手術と組み合わせる形になっています。現在、手術をしない治療の臨床試験が行われていますが、試験に参加するには、がんのタイプをはじめ、多くの条件があり、また結果が出るまで数年はかかると思われます。