「女性ホルモンで美しくなろう!」「男性ホルモンを増やして若々しく!」などというフレーズを目にすることもあるが、そもそも「性ホルモン」とはどのようなものなのか知っているだろうか。性ホルモンは、その名の通り生殖や性行動に深くかかわるホルモンだが、そのほかにも心身の健康にとって重要な作用を数多く担っている。私たちの体の中で性ホルモンはどのようにはたらくのか、性ホルモンと男女の違い、性ホルモンの量が多い・少ないことによる影響など、性ホルモンについて知っておきたい基礎知識を、名古屋大学医学部附属病院産婦人科・後藤真紀医師にうかがった。
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ホルモンは体内の「潤滑油」
人間の体は一定の状態に保たれるよう、絶えず体内で臓器の機能の調節が行われています。その役割を果たすもののひとつがホルモンです。主に内分泌臓器と言われる部位(脳下垂体や甲状腺、副腎、膵臓、卵巣、精巣など)で分泌され、さまざまな臓器の機能(血圧、体内の水分、血糖値など)を調節します。たとえていえば、ホルモンは私たちの体を適切に動かすための潤滑油のようなもの、というイメージです。
同様に体内の臓器の機能を調節するものとして「神経系」もありますが、神経系は電気的信号を介し、数秒以下で変化を起こします。たとえば手が火に触れて「熱い」と感じ、反射的に手を離す、といった動作は神経系のすばやい伝達によるものです。一方、化学的情報伝達物質であるホルモンは血液を介して数十分から数時間かけて、比較的ゆっくりと伝達されます。ホルモンにはそれぞれ、特定の標的細胞(受容体)があり、いわば「鍵」と「鍵穴」の関係にあるため、無関係な細胞には作用しません。ホルモンという「鍵」が受容体という「鍵穴」にぴったりはまると、受容体がはたらき始めます。
人間の体内には100種類以上のホルモンがありますが、もっと多くのホルモンが存在しているかもしれません。ホルモンが作用する仕組みなどについてもまだわかっていないことが多く、最近になってビタミンDがホルモンに似たはたらきをする物質でもあることが明らかになるなど、これからいろいろなことが解明されていくのではないかと思います。
性ホルモンと「男」と「女」
ホルモンの一種である「性ホルモン」は、コレステロールからつくられるステロイドホルモンです。脳の視床下部から分泌される「性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)」によって刺激された「性腺刺激ホルモン(LH:黄体化ホルモン、FSH:卵胞刺激ホルモン)」が卵子や精子の成熟を促すことで、主に性腺(卵巣や精巣)から性ホルモンが分泌されます。その最大の役割は生殖機能の調節です。