アフガニスタンで、タリバン政権の崩壊(2001年)後に発足したハミド・カルザイ政権の最後の数年は、まさにそうした状況でした。カルザイ自身が、政権保身のために反米キャンペーンの急先鋒に立ったのです。こうなると、占領統治がうまくいくはずはありません。
こうした状況を避けるためには、なんとかできるだけ事故や事件を起こさないようにして、起きてしまったときにはその対処(関与した兵士の処罰や再発防止策)を適切に行う。そういうことを地道にやっていくしか方法はありません。駐留軍と傀儡政権の間で取り結ぶ「地位協定」に、そのための法体制をしっかりと組み込んでおく必要があります。
「金正恩斬首作戦」はあり得るか
私は昨年(2017年)、韓国のソウルでアメリカ陸軍が主催した世界32カ国の陸軍のトップが集まる国際会議に講演者として招かれ、そこでもこうした「占領統治」についての話をしました。
講演後の意見交換では、北朝鮮についての話も出ましたが、一部でいわれる金正恩の斬首作戦などというものは「あり得ない」というのが全体の共通認識でした。金正恩を殺害して指揮命令系統を崩壊させてしまえば、これまで金正恩体制で特権をむさぼってきた人々が、復讐を恐れて抵抗勢力に回ることは間違いなく、占領統治の観点からはあまりにもリスクが高い、ということです。
また、北朝鮮を軍事力で押さえ込むとすればどのくらいの規模の兵力が必要か、という話も出ました。北朝鮮の人口は2500万人強とされていますから、「人口1000人に対して兵士20人」という先述の試算に則れば、必要な兵力は50万人以上。それだけの兵力を集めるのは、どう考えても国際社会のキャパシティを超えています。
北朝鮮を崩壊させて占領統治するということは、シミュレーションすればするほどリスクが高く、現実性がないというのが全体の雰囲気でした。少なくとも軍関係者においては、そうした意識がすでに共有されているのです。
繰り返しになりますが、現代の戦争とは、政権が倒れた後の「占領統治」から始まります。そしてその戦争に、アメリカをはじめとする国際社会はこれまでずっと負け続けてきました。アフガニスタンしかり、イラクしかり……それでも今なお、我々は現地に傀儡政権をつくり、長引く駐留の中でできる限り「失敗」を避けながらなんとか出口政策を探すという、これまでと同じ手法しか見いだしていません。
そのことが分かっていながら、今後また新たな「現代の戦争」──占領統治に乗り出す余裕が、果たして今の国際社会に、そして日本を含む各国にあるのでしょうか。そう、皆さんにも問いかけたいと思います。
https://youtu.be/f9UuCKlGtxs