受検することをうれしそうに話していたのだが、先日その話題になった時、「その話はもうやめて」と言った。母親に「うちは金がないのに、そんなもの受ける意味はない。受けるなら全部自分で払え」と言われたそうだ。検定や模擬試験などの費用は、控除の対象にならない場合が多い。数千円の検定料を払うことができない。彼女の勉強へのやる気もそがれてしまった。
高校卒業後は大学や専門学校などへ進学したいという気持ちはあるが、自信も、後押ししてくれる家族もない。親からは「早く働いて家に金を入れろ」と言われている。生活保護を受けながらの大学進学は認められていないが、控除を受けて進学資金を貯金することや、高校卒業後に世帯分離し、奨学金を利用して進学することは可能である。しかし、現在の奨学金は大半が給付型ではなく有利子で、実際には借金になる。進学の方法はあるものの現実は厳しい。現在、子どもの貧困問題に取り組む様々な団体が、給付型奨学金制度の拡充や、大学授業料を減免する制度の必要性を訴えている。
Colaboでは2013年の法人化以降、約300人の中・高校生と関わってきたが、その中で大学へ進学したのは1人だけである。高校中退者も多く、大学進学以前に、高校を卒業できるかどうかというところに大きな壁がある。多くが貧困と虐待を重ね合わせた環境にあり、家を出たいと考える人も多いが、日本では賃貸物件の家賃や入居にかかる費用は高く、未成年が自ら契約することもできない。そのため泊まるところを求めて売春したり、15~16歳の子が年齢を隠して寮付きの性風俗店で違法に働くこともある。
高校を卒業してから寮付きの仕事を探す人も多いが、契約とは違う店舗や職種で働かせたり、長時間労働をさせる、交通費を支給しないなどのブラック企業も少なくない。しかし職を失えば家も失ってしまうため、なかなか辞めることができず、経済的にも、精神的にも、体力的にも搾取されて疲れ切ってしまった人もいる。私たちが別の仕事を勧めても、「自分で見つけた仕事と家だから」とボロボロになるまでしがみついて頑張ってしまう人もいる。世田谷区では、児童養護施設退所者向けに安く住居を貸し出す事業を始めた。そうした取り組みが広がり、これまで児童福祉につながれずにいた若者たちも利用できるものになればと思っている。Colaboでは今年度、自立を目指す女子のためのシェアハウスを開設する予定である。
2015年、内閣府が子どもの貧困対策として「子供の未来応援国民運動」を始めた。ホームページ(https://www.kodomohinkon.go.jp)の「私が受けられる支援は?」をクリックすると、支援情報の検索ページに入れるが、そこには難しい漢字や用語が多く使われており、困窮した少女たちが利用のは厳しい気がする。「支援の種別」「悩みごと」からの検索も、実際にやってみると項目が細かく分かれ過ぎていて、複数の悩みを一緒に検索することもできず不便である。しかもスマートフォンで見ると、悩みごと別の選択項目が画面から切れてしまって読めないという致命的な問題もある。
検索結果として表示された情報にも、私はめまいがした。支援施策名と担当窓口と電話番号が一覧表示されるのだが、「母子父子寡婦福祉資金貸付金」「生活困窮者自立相談支援事業」などの支援施策名を読んでも、子どもにはほとんど理解できないだろう。難しい漢字がずらーっと並んでいて、私でも頭がぐるぐるする。掲載されている窓口名もいかにも役所的。電話番号に子どもが電話したところで、「親御さんと一緒に相談に来てください」と言われそうである。誰のためのサイトなのだろう。
夢を持つことを躊躇する
子どもに限らず、困窮者の多くは、そもそも自分が困っていることに気付いていなかったり、何に困っているのか自分でも分かっていなかったり、支援を受けられることを知らない人、自分なんか支援対象ではないと思っている人、制度や大人を信用していなかったり、検索しようとも思えない人、検索する方法が分からなかったり、漢字が読めなかったり、電話でうまく説明できなかったりする人が多いと活動の中で感じている。そういう人たちがずらっと並べられた施策名と担当窓口を見て、相談しようと思えるのかは疑問だ。
他にも様々な問題が指摘されている「子供の未来応援国民運動」だが(私はこの問題の責任や解決を国民に求めるのではなく、政府が財源を投入し、責任を持って格差改善のために努めるべきだと考えているので、このネーミングも不快に感じる)、「夢を、貧困につぶさせない」という言葉を掲げている。
しかし、Aはやりたいと思うことがあっても、諦めざるを得ない状況を生きている。夢を持ちたいと思っても、「どうせ無理だ。あとで悲しむことになるならやめておこう」と考えないようにしてきたという。そんな彼女が、夏休みの保育園でのボランティアについて「やってみたい!」と言えたこと、チャレンジしたいと思ったことを言ってもらえる関係性になれたことをうれしく思う。
私は「子どもに関わる職に就きたい」「そのためにボランティアしてみたい」という彼女の想いを応援したい。その活動から彼女が得るものに期待もしている。そのために本人と相談して、必要な費用を日頃から支援してくれている人たちに募った。支援金は彼女が受け取ると収入になってしまうため、Colaboが受け取り、電車の回数券などを買って本人に渡すことにした。ボランティアに申し込む際の緊急連絡先には私がなった。自分のことを応援してくださいとお願いするのも、勇気のいることだと思うが、彼女は自分で文章を書いた。
「こうやって私のために寄付を応募してくれたり、他の人も協力してくれる事にほんとに感謝してます。こんなに自分のために一生懸命やってくれる人は初めてです。今まで全部自分だったしほんとに嬉しいです。寄付してくれたりする人に感謝です。そのぶん私は、みんなに恩返しできるように頑張ります」と、Aは話した。
大人が作る環境次第で、チャンスをつかんだり、きっかけを得ることができる子どもは、たくさんいるはずだ。どんな家庭で育っても、チャレンジすることができる社会を作るためにも、当事者の子どもたちにとって意味ある貧困対策を進めてほしい。もちろん制度の活用も大切で、専門家の力も欠かせないが、大人の方にはもし気になる子どもがいたら、まずは声をかけてみてほしい。相手を気にかける気持ちを持って、子どもの気持ちに気付き、寄り添える大人であってほしい。
また、子どもたちには、きっと力になってくれる人がいることを忘れないでと言いたい。夏休み中、食べられる物がなかったり、安心して過ごせる場所がないという人、力になってくれそうな大人がいたら声をかける勇気を出してみて。諦めないで。そしてColaboでよかったら、連絡してみてください。