保育園でボランティアしたい
私が代表を努める女子高生サポートセンターColabo(コラボ)につながる少女の中には、子どもに関わる仕事に興味を持つ人が少なくない。そのことを知った知人が、夏休みに中・高校生がボランティア活動をできる保育園を紹介してくれ、高校1年生のAが参加を希望した。しかし活動には保育園までの交通費と1日300円の給食費を負担する必要があり、彼女にはそれが用意できない。給食費について、その場にいた女性が「1食300円なら安くない?」と言うと、Aは「うちにとっては超高い」と話した。
この保育園ではアルバイトも募集していて、そちらは交通費と給食費が支給となる。しかし彼女の家庭は生活保護を受けており、収入に応じて保護費が減額されるため親が許さない。生活保護家庭の高校生がバイトをした場合、勤労控除の1万5000円と未成年者控除の1万1400円を合わせた2万6400円以上を稼ぐと保護費が減額される。それ以上働いても全額分が差し引かれるのではなく、収入に応じて手元に残る金額は変わってくるのだが、親は口座に振り込まれる額が少なくなってしまうことを嫌がり、「そんな時間があるなら家の手伝いをしなさい」と言う。Aは飲食店でバイトをしているが、シフトを多く入れることができないため、店長から「もっと入れないの? 3時間だけ来てもらっても意味ないんだけど」などと嫌な顔をされている。
Aの母親は生活保護を受給しながら、申告した住所とは別の家で彼氏と同居している。母親はAが小学生の頃から彼氏の家で生活を始め、2人の子どもを自宅に置いてほとんど帰ってこなくなった。当時小学4年生だったAは、中学2年生の姉と「二人暮らし」をしていた。
「お姉ちゃんと家事を分担して、私はイスの上に乗って洗濯を干していた。お姉ちゃんが熱を出した時だけ、近所に住むおばあちゃんに電話するとご飯を作りに来てくれた」という。母親は週に1回、数時間だけ帰宅し、数品おかずを作って冷蔵庫に入れていった。姉妹はそれがなくなると水でおなかを満たした。どうしてもおなかがすいて、万引きをしたこともある。
姉が高校生になると、母親は光熱費も自分で払うように言い、姉はラーメン店のバイトと夜の仕事を掛け持ちして生活を支えた。Aの文房具も「お姉ちゃんが買ってくれた」という。母親は授業参観や三者面談にも来ない。学校からの連絡を受けて、担当のケースワーカーが家庭訪問をすることがあったが、その度に母親は子どもたちに「この家で親子で暮らしている」と、嘘をつくよう指示した。
姉が高校3年生の時、アルバイト収入を申告していなかったことが役所に発覚し、調査が入った。ラーメン店で稼いだ230万円以上が生活保護の不正受給となり、控除は適用されず、全額返済することになった。姉はその後、ケースワーカーの勧めで世帯分離をし、奨学金を借りて専門学校に進学した。不正受給となってしまった保護費の返済義務は母親にあるが、毎月6万円を返すよう母親から命じられている。
専門学校に進学してから、姉は学費を稼ぐため、より多くの時間を水商売の仕事に充てた。姉が家で過ごす時間が少なくなったため、「中学3年生のAを一人にしておくのは心配だ」という祖母の意見を聞いた母親が、Aを自分の彼氏の家に引き取った。Aは同居する母親の彼氏から暴力を振るわれている。彼氏の機嫌が悪いと「誰の家に住んでると思ってるんだ」と怒鳴られ、黙っていると「何か言え」と言われ、何か意見すると「口答えするな」と言われるという。
母親も孤立し、困難を抱えている
生活保護家庭でも、ケースワーカーとの相談の下、修学旅行費の積立金や専門学校や大学等の入学資金、自動車免許取得費、塾代などはアルバイト収入から控除できるよう制度上はなっている。しかし、親が同意しないケースもある。役所への控除申請やケースワーカーとの話し合いをしてくれなかったり、暴力が日常化していて親とまともに話し合えない高校生の中には、控除のための手続きを諦め、役所にばれない稼ぎ方として売春や、履歴書や身分証なし、日当手渡しの危険な仕事に手を出す人もいる。
高校生の子どもがいる生活保護家庭には、高等学校等就学費(5450円)と学習支援費(5150円)、教材代、通学のための交通費が別途支給されるが、Aの場合、親からの身体的・精神的暴力とネグレクトがあり、上履きや文房具も中学生の頃から自分で買ってきた。母親の口座に入るお金が彼女に使われるかどうかは、母親の気分や機嫌によって変わるため、母親や母親の彼氏に少しでも気に入られようと振る舞ったり、彼らの気に障らないよう家の中では足音も立てない、うたた寝もしないなど、Aは常に緊張しているという。
教科書については、見積書や領収書を役所に持参し、実費の支給を受けることができる。Aは学校で教科書が破られたり、落書きされたりするいじめにあって買い直したいのだが、その費用がどこから出るのかや、費用を出してもらうために役所に出向く必要があること、そのことがきっかけで母親に嫌味を言われること、母親の彼氏から暴力を振るわれること等を恐れ、被害を親、教員、役所などに知られることを嫌がって打ち明けられずにいる。
部活にかかる用具や遠征などの費用は学習支援費から支払うことになっており、それ以上かかる場合もケースワーカーと相談すれば控除の対象となる場合があるが、彼女の母親は「部活は金がかかるからダメ」と言い、それ以上お願いすると殴られるかもしれないと感じAは黙ってしまう。通学のための定期代も支給されるが、夏休み中は期限が切れるため、家にいたくなくても交通費がなくて気軽に外出もできない。
彼女に対する母親の行動は明らかに虐待であり、保護が必要な状況だ。しかしAにはそれでも母親と一緒にいたい気持ちがあり、児童相談所に行くことや、役所に生活の実態を話すつもりは現時点ではないという。もし私たちが無理やり公的機関に彼女を連れていっても、きっと本当のことは話さず、私たちは彼女の信頼を失い、関係が切れてしまう可能性が高い。本人が望んでいない状態で無理やり保護しても、その後の生活がうまくいかない場合が多い例もこれまで目にしてきた。また保護する側も、中・高校生ぐらいの年齢だと本人が強く望まない以上は、直ちに命の危険があると判断できる状態でもなければ積極的な介入をしない場合が多い。
彼女の母親を責めたい気持ちにもなるが、母親も自身が高校を中退してから水商売で働き、シングルマザーとしてAが小学3年生になるまで夜の仕事で生計を立ててきた。肝臓を悪くし、働くことができなくなって生活保護を受給することになった。精神的にも不安定な状態であり、社会から孤立して彼氏に依存しており、支援が必要に思える。学校や児童相談所等とも連携し、家庭への介入が必要と考えているが、A自身が支援を拒んだり、大人への不信感を持っていたり、Colaboとのつながりを家族に知られたくない気持ちがあることなどから、まずは信頼関係を築き続けることを第一に、彼女が「状況を変えたい」「もう家にいられない」と思う時が来たら動ける状態を保ちたいと考えている。
母親は、学校がある時はAにお弁当を持たせているが、午前授業の日や、試験期間など学校が昼前に終わる日は作らない。夏休み中なども、気まぐれに食事を作ってくれることはあるが、家にいないことも多いため、食事代を持たないAはColaboに通ってきて昼食や夕食を共にしている。
機会の格差
彼女はこれまで、やりたいことがあっても挑戦できなかったり、周囲に遠慮して言い出せなかったり、はなから自分には無理だろうと思って考えないようにしていたと言う。ここ数カ月間は、漢字検定と英語検定を受けることを目標に勉強に励んでいた。