この年から、Colaboでは児童買春をテーマにした「私たちは『買われた』展」を企画し、活動を通して性搾取の実態を伝え、理解者が増えたことが新法制定に向けた力にもなっている。
数年前までは現状調査さえもなかった
私たちは活動を始めた時から、行政に支援を求めても「自殺対策なら枠があるが、女性や若い少女たちを支援する枠組みはない」とはっきり言われてきた。「そういう子はどこにいるのか? 何人いるのか? こちらでは把握していない」と言われ、現状を知ろうとしない、調査をしようとしない行政の態度に憤りを感じながら、実際の活動を通して困難を抱えた少女や女性がたくさんいることを伝え続けてきた。こうした活動を10年続けることができたのは、周囲の方々からの寄付など具体的な応援や支えがあってのことだった。
既存の「支援窓口」には足を向けない、こちらから出向かなければ会えない少女や女性たちがいることから、そうした人たちがいる場所へ出向き、つながるために働きかけを行うこと(アウトリーチ)の必要性を訴え、そのことを国も認識して18年に「東京都若年被害女性等支援モデル事業」が始まりColaboも受託した。アウトリーチの強化は必要だが、支援を必要とする人に出会ったところで公的な受け皿がないため、Colaboでは自主事業としてシェルターやシェアハウスなどで住まいの提供をしている。
しかし民間団体の資金では限界があり、圧倒的に不足していることを繰り返し指摘し、「出会ったあとの責任が取れない、受け皿の拡充を!」と要請したら「まずは自助努力でお願いします。制度は後からついてくるものです」と東京都に言われた。そのため、Colaboは市民から寄付を募り、シェアハウスを5物件15部屋に拡大し、22年3月にはアパートタイプの住まいも8部屋開設するが、年間1500人以上の少女たちから相談がある中ではまったく足りていない。
公的支援の道をようやくこじ開けた
モデル事業が始まり、女の子たちが婦人保護施設を利用できるようになるかと期待したのだが、「措置」の仕組みの問題により施設に入れた女の子は一人もいなかった。女性に選択権はなく、見学やお試し入所もさせてもらえないまま「措置」されるという仕組みそのものが、本人主体の支援のあり方ではなく、管理・指導的な目線によるものだが、今もこうした支援が続いている。
この問題をさまざまな政党の都議会議員に伝えたところ、東京都は20年度末に2人の女の子を初めて婦人保護施設に繋いでくれた。東京都と連携して若年者支援のモデル事業を行った3年間(Colaboが活動を始めてからだと9年間)で、たった2人だけである。
しかし、そこから婦人保護施設利用の道が切り開けた。これまで婦人保護施設は、若年女性を受け入れてきていなかったので、改善してもらわなければならないところもまだまだある。それでもまずは、若年女性が公的な支援を使えるということが、ようやく始まった(というかこじ開けた)ところだ。
未だに入所のハードルが高かったり、女性たちの生活やニーズに合った対応ができていないため、抱えている困難が大きかったり、見守りが必要な人ほど、公的支援を利用できず、アパートで一人暮らしせざるを得なくなることが続いている。
女性支援を加速させる新法への期待
公的機関で唯一、積極的なアウトリーチを行っている(補導という形になるのでケアではない)警察からは「売春防止法で女性を補導することしかできない」と言われ続けてきた。ここまでも大変だったし、これからも大変なことばかりなのだろうとは思うが、この新法が今国会で成立したら、日本社会にようやく女性支援の根拠法ができる! これまでなかったという事実も、多くの人に知ってほしい。
全国各地にColaboのような活動のできる人を増やしたい、そのためにも国に予算をつけさせたいと思い、18年にColaboは東京都のモデル事業を受託して活動することを決めた。モデル事業の内容は、アウトリーチ、一時保護、自立支援と、Colaboがつくってきた活動そのものだったので、実績を作り必要性を訴えることで予算化され、全国に広がるようにと願って取り組んだ。
今年度からこれが本事業化され、来年度はさらに予算も増え(それでも必要な活動を補うには足りないが、支援の根拠法もない中で予算がついたことは画期的)、これから全国に広がっていく段階だ。全国でColaboのような活動が必要だと考え、繋がってきたみなさんと、それぞれの場所で一緒に取り組む時がいよいよ来る。そのためにできることは何でもしたいし、力を合わせて、これからの女性支援をつくっていきたいと思っている。
今はとにかくこの法案を、議員の方に超党派で力を合わせて国会で通していただくべく、市民の声を高めていく必要がある。
「自立」ではなく「人権と生活」を目的に
しかし、16日に提示された骨子案をみて、次のことを懸念している。これまで私は「自立を目的とせず、人権保障・生活保障を目的とすること」を要望してきたが、「自立」を目的にするかのような書かれ方をしていること。また、婦人保護施設が「女性自立支援施設」という名称になる案が出されていることはとても残念だ。
自立とは、職業的・経済的な自立を意味して使われ、生活保護の利用者に対して厳しい「自立指導」を行う自治体もある。また児童自立支援施設など、子どもたちにとって「入所させられる」「更生指導される」施設でも使われている言葉である。「自立させる」という考え方自体が当事者に対する上から目線であり、それでは「売春に転落した女性を更生指導する」というこれまでの婦人保護の考えから脱却できないと考える。
そうした少女や女性たちが進学するためには大きな壁があり、生活保護を受給しながらでは大学や専門学校への進学は認められていないため、この新法を根拠に資格取得や、専門学校や大学進学のための学費や生活費などの力強い経済的な支援までするつもりで、そのために「自立」と書いているということではないだろう。
また、女性の人権・生活保障を本当に考えるなら、婦人保護施設は「女性自立支援施設」ではなく「女性生活支援施設」などとするべきだ。骨子案では、「当事者を尊重」と繰り返されているが、この名称を当事者が聞いたら、どう思うか少しは考えてほしい。行きたいと思わないのではないか。「婦人保護」もひどいと思ってきたが、意味がわからない「婦人保護」より「自立支援施設」の方はさらに嫌かもしれない。これは当事者抜きで決められた言葉だろう。このような上から目線の名称では施設のスタッフの利用者への目線もそういうものになってしまうのではないか。
あくまで責任逃れをしたがる大人たち
私は女性支援や児童福祉の現場で、「当事者の意思を尊重する」と言いながら、それを盾に「本人が支援を拒んだ」などと決めつけて、必要な選択肢も提示することのないまま厳しい管理者都合での条件やルールを押し付けるような支援を毎日のように見てきた。「本人の意思」を支援者側の都合の良い言い訳に利用して、責任逃れをするということを繰り返すのだ。そのため、骨子案にあるような理念が「支援をしない言い訳」に利用されないようにしていかなければならない。
法律の名前も「女性包括支援法」などになることを願っているが、「女性自立支援法」などとなりそうな流れなのではと心配している。また、売春防止法では「売春のおそれのある女子」を対象とされていたところに、新法では「性売買・性搾取の被害にあった女性に対する支援を行うこと」と明記してほしいとも要望していたが、骨子案には「性的な被害」と一言だけしか書かれていないのも気になっている。