2020年4月に更新してから、このコラムを書く余裕のないまま2年近くが経ってしまいました。楽しみにして待ってくださっていた方、申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございます。この2年間、新型コロナウィルス感染症の影響により、支援現場は大変な状況になり、私もかつてないほどに忙しい日々を送っていました。今回は、コロナ禍での活動についてお伝えしたいと思います。
「ステイホーム」できない少女たち
「非常時には子どもや女性への暴力が深刻化する」と国連も注意喚起しているが、埼玉県警察はコロナ禍の中、SNSで居場所を探す少女たちを狙った誘拐事件が増加したと発表。私たちColabo(コラボ)でも、2020年2月末に当時の安倍晋三政権が全国の小中高校に臨時休校要請を行ったことで、虐待や生活困窮のリスクが高まり相談が急増した。
19年度の相談者は591人だったが、20年3月から5月までに300人以上からの相談があり、20年度は前年比2.5倍以上の約1500人に関わることとなった。一方で、SNSで「#家出」「#泊めて」などと投稿する少女たちに、私たちの応援者の方々が「知らない男のところに泊まるくらいならColaboに連絡してみたら?」と案内してくれたことからColaboへ繋がった少女たちもいる。
安心して過ごせる「ホーム」を持たない人たちは、「ステイホーム」の呼びかけから排除されている。路上や知らない人の家を転々としたり、ネットカフェに寝泊まりしたりするなど、感染リスクの高い生活をせざるを得ない少女たちを受け入れる中で、Colaboのシェルターでも新型コロナの感染者が出た。風呂、キッチン、トイレが共用のため、入居している女の子たちが濃厚接触者となった。精神的にもつらい2週間の自宅隔離生活を過ごし、施設内の消毒なども自分たちで行わなければならなかった。
必要な人に、どのように安心安全に過ごせるところを用意するかを考えていた時、宿泊客が減った複数の民間ホテルが、経営も大変な状況の中で協力を申し出てくれた。ホテルの客室をシェルターとして活用できることになり、20年度は約100人の女性に770泊を超える緊急宿泊支援を行うことができた。
貧困が急速に拡大している
新型コロナの影響が出始めてから2年経った今も相談者は増え続け、私は休みのないまま活動を続けているが、他の困窮者支援団体も同様で、東京では21〜22年の年末年始数日間で民間団体や市民による炊き出しを2000人以上が利用したという。菅義偉政権は「自助、共助」を国民に繰り返し求めたが、とっくに自助や共助では限界だ。そもそも公助が機能していないから、これだけの人が困窮しているのだ。
女性の失業率や自殺率も非常に高まっており、支援の現場では虐待や性搾取の深刻化、孤立や貧困の広がりを実感している。女性や子どもが日本社会でいかに大切にされてこなかったか、ということを痛感せざるを得ない2年間だった。
従来Colaboでは、それまでの傷つきや経験から大人や支援機関を信用できず、自分でなんとかしようとした結果、頼れる大人がいない中で家を出て、性搾取の被害にあいながらも自分を責めるなどし、自分から助けを求められない状況にある少女たちに繋がるための活動をしてきた。しかし、コロナ禍で自ら助けを求めて連絡してくる人が急増し、対応に追われた。そのため「助けて」と声を上げられない状況にある少女たちと出会い、丁寧に関わる時間をどう作るかが課題となっている。
自分から助けを求められる状況にある少女たちの多くは、今まで家で心から安心して過ごせないまでも、学校に行ったりアルバイトに行ったり、そのお金で食事に行ったりと気分転換しながら家にいる時間を減らし、家族と良い距離感を保って生活してきたという。しかし、新型コロナの影響で学校の授業が減り、親もリモートワークで家にいたり、アルバイト先も休業したりして家族と一緒に家にいなければならない時間が増え、虐待のリスクが増して「もう耐えられない」と連絡をくれる。
そうした少女たちは、公的支援が周知され機能していれば、必要な支援を受けることができるはずなのだ。が、若年女性に対して適切に対応できる機関があまりにも少なく、学校や児童相談所、警察、役所などで不適切な対応をされたことからColaboに助けを求めてくる場合も多くある。
虐待などを背景に家で安心して過ごせない人にとって、自粛要請によって家にいる時間が長くなることは、暴力や性虐待を受けるリスクが高まり精神的な負担も増大することにつながる。アルバイト代で自身の生活費や学費を稼いで生活している少女たちも、新型コロナの影響で収入が激減している。
家にいられない、帰れない、帰りたくない状況の中で仕事もできず、その日食べるお金もない少女たちはネットカフェなどに滞在することも難しくなり、居場所をなくしている。コロナ禍で学校との繋がりも薄れ、身近に頼れる大人が普段以上にいなくなり、子どもたちも一層孤立し、追い詰められやすい状況になっている。
私たちが夜の渋谷や新宿歌舞伎町で開催している無料のバスカフェでも「お菓子よりも、お米」「コスメよりも、下着や靴下」など、生活必需品を希望する人が多くなった。オープン前から行列ができ、ひと晩で50人以上の少女たちが利用するほどだった。近年、日本で「生理の貧困」というワードが知られるようになったが、Colaboの活動でも少女たちに一番もらわれていくのは生理用品だ。生理用品さえ買えないほど困窮が増しているということである。
バスカフェは本来、夜の街をさまよい、助けを求めようと考えることもなく性搾取の被害にあいながら過ごしている少女たちに出会うために始めた取り組みだった。しかし「ここに行けば良いものがもらえるし、相談にも乗ってもらえる」と口コミで少女たちに広まり、自ら助けを求めてやってくる人たちであふれる事態となってしまった。
私たちもその状況にとにかく対応しようと必死だったが、自ら助けを求めて来る人が多く集まる場になることで、夜の街で過ごしている少女たちが来づらい雰囲気になってしまった。そこで自ら連絡をくれる少女たちには別の方法で対応することとし、去年の夏からバスカフェは開催時間を深夜0時~朝5時に変更するなどして活動を続けてきた。