「世帯主へ」とされた特別給付金
20年、政府は一人あたり10万円の特別定額給付金を「世帯ごと、世帯主への給付」とし、そこでも個人が尊重されない政治のあり方を実感した。私たちは、そのやり方では虐待から逃れている子どもたちが受け取れないと訴えた。この問題は国会でも取り上げられ、配偶者やその他親族からの暴力や、性暴力被害、貧困その 他の理由が複合的に重なる等して避難している事例における特例給付要件に「親族からの暴力等を理由に避難している者が自宅には帰れない事情を抱えているもの」という条項が加えられ、政府から各自治体へ通達された。
ところが複数の自治体で、少女たちの申請が拒否される事態が多発。申請窓口で「自分でもらうと親が怒ると思うよ」「居場所を探されたらどうするの?」と受け付けてもらえなかったり、「国から特別に認められたDVじゃない限りは、原則世帯主に給付することになる」「親が先にもらっていたら受け取れない」などと誤った説明をされたりした。また、虐待の状況を申告する確認書の作成を嫌がった児童相談所が、「父親に確認する」とか「どうしても自分で受け取りたいのであれば弁護士に相談して」と対応したこともあった。
さらに、21年末に支給された子育て世帯への臨時給付金についても、政府は一部例外を除き9月時点で児童手当を受給している世帯を支給対象とした。それだと9月以降に両親が離婚した場合、元妻・元夫のどちらが子どもを引き取っても、当時世帯主だったほうに給付金が振り込まれてしまう。離婚して母子家庭になった世帯が、給付金を元夫にとられてしまう可能性もあることから支援団体等が抗議している。
そもそも「個人」ではなく「世帯主」へ給付するという考え方は、妻や子どもが夫や父親の所有物=「家」のモノとして扱われてきた時代に根ざしており、今の社会もその延長線上にあることを考えさせられた。
虐待から逃れた子にも給付型奨学金を
新型コロナ関連以外の支援も続いている。Colaboと繋がる少女たちの多くは学校もあまり行けておらず最終学歴は中卒か高校中退だが、先ごろ初めて大学や専門学校に通うメンバーが出た。そうした中で彼女らが奨学金を申請したところ、児童福祉施設で保護されていない18歳までの人は保護者がいるとみなされ、親との同居や支援がない状況でも「独立生計者」として認められないとわかった。
この問題も私たちが提起したことで国会で取り上げられ、虐待から逃れて自身で生計を立てている人も「独立生計者」として認められ、給付型の奨学金や無利子の奨学金を申請できるようになった。文部科学省の説明では、大学が本人から聞き取りなどを行い、虐待の事実を確認できれば第三者からの事情書は必要ない。しかし、これについても大学側が「本当に暴力を受けているかわからない」「証拠がない」と、奨学金申請を諦めさせようとするケースが複数起きている。大学には学生を守ることを第一に考え、事情書を必要とする場合でも学内のカウンセラーなどへの相談でOKとするなど、被害を受けた学生への負担を軽減するべきだ。
このことを知った大学関係者や支援者等から「同じ状況の学生がいるが、どうしたらよいか?」との問い合わせもあった。Colaboで暮らしながら進学したメンバーが、悔し涙を流しながらも諦めずに声を上げ道を切り開いてくれたのだ。
やっとの思いで虐待から逃れた学生が、親に住所を隠す公的な手続きもして生活を始めていると何度も大学に伝えていたのに、事務局から「奨学金の書類は保護者宛に送るルールだ」と言われたり、新しい住所の入った書類を実家に送られてしまったケースもあった。そこには彼女の保証人となった私の名前や自宅の住所も書かれていた。これに抗議をするため、私たちは弁護士に高い費用を支払い、大学へ内容証明を送ることになった。すべての学校は、親から逃げざるを得ない学生に対して、親から問い合わせがあっても居場所や住まいを教えないなど、被害者を守るためのルールを整備するべきだ。
日々の活動が煩雑になる中で、こうした問題を一つひとつ丁寧に言葉にすることができていなかったが、今後はまた日々直面する「ここがおかしい」問題を言葉にし、みなさんと共に考えていきたい。
Colaboでは一緒に支援活動をしてくださるスタッフを募集しています。
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