そもそも「思いやり予算」って何ですか?
殿垣くるみ(聞き手) 『主権なき平和国家』の中で、「思いやり予算」というのが出てきましたが、そもそも、思いやり予算って何ですか?
布施祐仁 いま日本政府は、毎年2000億円ほど、(思いやり予算を米軍に)支払っています。当初は法律上も、日米地位協定上も根拠がないものだったため、何を根拠にお金を出すのか、と国会で議論になりました。その1978年当時、金丸信防衛庁長官が国会で「思いやりの精神でできるだけアメリカに対してお金を支払いたい」という説明をしたことから、「思いやり予算」という名前がついているのです。
思いやり予算は、ずっと続くものではなく、一時期の限定的なものと考えられていました。思いやり予算を出し始めた背景には、為替レートがドル高になったことがあります。当時米軍基地で働く日本人従業員の給料は、米軍が出していました。ところが、ドル高になったためドル建てにした場合、人件費が非常に高額になる。そこで(米軍は)「これはもうやっていけない」ということで、SOSを日本政府に出したわけです。それに対応するために、一時的なものとして、思いやり予算を出したわけです。ところが、その後もずっと今日まで続いているというのは、これはきわめて異常な事態だと思います。
今では、米軍基地で働く従業員だけではなく、米軍の厚生施設、ゴルフ場やボウリング場、映画館などの施設で働いている従業員の給料まで、日本側で支払うようになってしまいました。
日本は、なぜ「思いやり予算」を払い続けているのか?
元山仁士郎(聞き手) 思いやり予算は、どうして今までずっと続いているのでしょうか。
布施祐仁 思いやり予算が、一番大きく膨らんだ契機になったのは、1991年の湾岸戦争でした。この時、アメリカは湾岸戦争にたくさんの戦費がかかるということで、その戦費の負担を日本に求めたわけです。さらに同時に、アメリカは日本に対して、自衛隊を派遣できないか、と言っていた。しかし、当時、自衛隊は創設以来、海外には出さないということでやって来たので、自衛隊は出せない。(自衛隊を海外に派遣することを可能にする)法律もありませんでした。そこでアメリカ側は、「自衛隊を出せないのなら、代わりにお金で協力をしろ」という圧力をかけてきたのです。
アメリカ国内では、「日本は安保にただ乗りをしている。一方的にアメリカに守ってもらっていて、その分の負担を十分にしていない」という批判が強まりました。これにおされる形で、日本政府は思いやり予算をさらに拡大しました。例えば、米軍の水光熱費や暖房費まで払うようになってしまいました。
安保ただ乗り論は方便にすぎない
私は、「安保ただ乗り論」は、いわばアメリカが、日本政府に「もっとお金を出しなさい」というための一つの方便だと思っています。日米安保条約は、アメリカが一方的に日本を守っているというものでは決してない。アメリカにとっても(日米安保は)大きな国益なのです。
1991年に、思いやり予算を拡大する特別協定が(日米間で)結ばれました。その後に、当時のアメリカの国防長官であるディック・チェイニーが、米議会でもはっきりと言っています。「米軍が日本にいるのは、日本を防衛するためではない。米軍にとって日本駐留の利点は、必要とあれば常に出撃できる前方基地として使用できることである。しかも日本は米軍駐留経費の75%を負担してくれる」(1992年3月5日、米下院軍事委員会)
結局アメリカ側の思うように、日本は要求をのんでしまったという形だと思います。