布施祐仁に聞く
殿垣くるみ(聞き手) アメリカ以外の国と日本は地位協定を結んでいるのでしょうか。
布施祐仁 日本は、ジブチというアフリカの国と地位協定に類する協定を結んでいます。いま日本は、ソマリア沖の海賊対処活動で自衛隊を派遣しています。そして、ジブチ政府からジブチ空港に隣接する土地を借り上げて、(自衛隊の)基地を置き、そこに自衛隊が駐留しています。その自衛隊員の地位を決める地位協定を、ジブチ政府と結んでいます。
この日本・ジブチ地位協定は、日米地位協定以上にジブチの主権を侵害するような内容です。例えば、(日米地位協定の場合だと、)日本で米兵が事件・事故を起こした場合には、公務と公務外によって区分けをします。そして、公務外の事件・事故については、日本側で一応第一次裁判権を行使できるようになっている。けれどもジブチにおいては、公務であろうが、公務外であろうが、自衛隊員が事件事故を起こした場合は、現地の法律から一切免責される。まさに治外法権といえるような協定をジブチ政府と結んでいるのです。このことはほとんど知られていないということが、非常に問題だと思います。
日本の国民は日米地位協定によって主権が侵害されていることに対して、問題だと思わなかったり、あるいは慣れ切ってしまっています。さらに、今は自衛隊が海外に出て行って(ジブチなど)他国と地位協定を結ぶ時代になりました。その時に、日本が他国の主権を踏みにじったり、侵害しているということについても、感覚が麻痺してしまっているのは非常に危ないことだと思います。
殿垣くるみ(聞き手) そもそもジブチに海賊対策を理由に、これだけ外国軍の基地が集まっている必要性はあるのでしょうか。
布施祐仁 ジブチの国際空港の周辺には、自衛隊だけではなく、フランス軍や米軍の基地、そして中国軍も新たに基地を置くというように、各国の基地が集まっています。自衛隊については、海賊対策活動のために基地を借りたのですが、フランス軍はもともとジブチがフランスの植民地でしたので基地がそのまま残っています。米軍もこの海賊対処活動のためだけに基地を置いているのではなく、アフリカでさまざまな軍事活動を行う拠点として、基地を置いています。
日本政府も海賊対処活動だけではなく、もっと広くこの基地を使うための検討を始めています。例えば、アフリカに進出した日本企業の駐在員が現地の武装勢力に拉致をされたり、暴動に巻き込まれたりした時に、すぐに自衛隊員が救出に行くことができるような拠点としても(ジブチの基地を)使っていこうとしています。実際に(日本は)ジブチから新たに土地を借り上げて基地を拡張しています。つまり、これからは海賊対処活動のためだけではなく、ジブチから自衛隊がアフリカの色々な国にいつでも行くことができる。そういう場所として、ジブチに自衛隊の恒久的な基地を持つということを、今日本政府は検討しています。
伊勢崎賢治に聞く
殿垣くるみ(聞き手) アメリカ以外の国と日本は地位協定を結んでいるのでしょうか。
伊勢崎賢治 アクティブなのは、日本・ジブチ地位協定です。(その協定では)米軍が日本の司法権の一部を奪っているように、日本はジブチの司法権を奪っています。(しかも日本がジブチの司法権を)奪う度合いは、(日米地位協定で日本の司法権を奪っている)アメリカの比ではありません。
(これは日本国民全体で考えなければならないことだと思いますが、そもそも)なぜ受入国が、外国軍を受け入れるのでしょうか。それは(例えば日米地位協定で言えば)日本が司法権を放棄しても、悪いことをしたアメリカ人はアメリカで裁かれるという安心感があるからです。(しかし)日本の法律では、自衛隊が海外で犯した過失を裁くことができません。自衛隊は非常に完成度が高い軍事組織ですから、いまのところ何も(事件・事故を)起こしてはいません。しかし、事故というのはいつ起きるか分からないものです。その時に待っているのは、法の空白(という事態)です。(日本は)実力組織があるのに、軍事的な過失の責任をとることができない。その矛盾が明らかになるのが日本・ジブチ地位協定です。
殿垣くるみ(聞き手) どういう名目で自衛隊はジブチに駐留しているのでしょうか。
伊勢崎賢治 (自衛隊のジブチ駐留が始まった契機は、)2001年同時多発テロを受けて、アルカイダをかくまっていたアフガニスタンのタリバン政権に対して、アメリカが報復攻撃をして始まったテロとの戦いでした。そのアフガニスタンの南には、パキスタン、そしてその南にインド洋があり、インド洋の先にはイスラム圏が多い北アフリカがあります。(アフリカから)テロリストたちが海を渡ってパキスタンに上陸し、アフガニスタンに来るかもしれない。そこで、海上を取り締まるという国際作戦に国連が承認を与えて、全世界でこの海を取り締まろうということになったのです。
(その作戦に日本も)協力しなければいけないということで、自民党政権が決定し、民主党政権がそれを実行に移しました。(実行に移す時)自衛隊が(海外に)軍事基地を作るということに、リベラルの人たちは反対しました。それに対して、民主党政権が使ったロジックというのが、「邦人保護」の目的で基地を置くというものでした。
(その当時リベラルはその説明で納得したのですが)これは絶対にいけないことです。なぜなら、海外にいる自国民を救うために軍隊を派遣することは、侵略行為にあたるからです。(ジブチ基地を拠点にして)自衛隊が参加している作戦は国際的には集団安全保障なのです。しかし、日本にとっては自国民を救うため、(自国の)艦船を守るため、ということになっている。これは間違っています。僕は、その意味においても自衛隊はジブチから撤退すべきだと言い続けています。