加藤 犬や猫では生後2週間から2カ月くらいまでの社会化期と言われる時期にどんな体験をしたかということが一生に大きな影響を与えます。だからペットショップでの販売をめぐる8週齢問題というのが動物愛護法の改正でも問題になりました。親や兄弟からいろいろなことを学ぶ一番大切な時期を、ケージの中だけで過ごさせないように販売時期を規制しようというものです。ショップ側からしたらかわいい売り時を逃すという反発もあるのですが、子猫のかわいいさかりはほんの数カ月ですから、それよりも猫の一生のほうが重要だと私は思います。
谷村 やっぱりそうですよね。いろいろなことを学ぶ時期があるんですよね。そういえば、おもしろいことがあって、ミーミーが来る前、チャイがぬいぐるみをかわいがり始めたんです。最初は小さなサルのぬいぐるみで、朝起きるとそのサルが水飲みの中に落ちていたり、ごはんの中にあったり。最初は理由がわからなかったのですが、おもしろいので他のぬいぐるみを与えてみると、やっぱり水飲みやごはんのところにずるずる引きずって連れて行くんです。もこもこしたスリッパまで(笑)。それで、これは水飲みの場所などを教えているのかなと思ったんです。水を飲みなさい、ごはん食べなさいって。ミーミーが来たらぬいぐるみは連れていかなくなったから、教える対象がミーミーに変わったんだと思います。
加藤 そういうことはあると思いますよ。
猫にとって飼い主は自動販売機!?
谷村 ところで、加藤さんのところはいつも和猫ですか?加藤 和猫というか雑種ですね。みんな保護猫です。
谷村 チャイもミーミーも保護猫で和猫っぽいんですが、この間、近くの公園でノルウェージャン・フォレストキャットみたいな長毛の野良の子猫が捕獲されて紹介を受けました。なんでこんな所に? って感じ。野良猫や保護猫は出会うまでの時間がわからないから、どこでどうしてきたのか聞いてみたい。そんなこと、考えませんか?
加藤 おもしろいですね。お前はどこで生まれて何してきたのって、私は考えたことなかったけど、聞いてみたいですね。
谷村 考えたことないですか? 男の人に会ったときもそう思わないですか? 私と会うまでどうしていたんだろうって。
加藤 そんなこと考えたこともなかった(笑)。もう、出会ったときからが始まり。瞬間の切り取りでいいと思ってました。
谷村 刹那(せつな)ですね(笑)。なんだか猫的ですね。
加藤 猫も瞬間で生きていると思いませんか? 人のように一日という意識はなくて、昼は寝ている合間にときどき起きる、夜は起きている合間にときどき寝るという感じがします。
谷村 暦のような一日の感覚はないけれど、猫にも24時間という体内のリズムみたいなものはあるんじゃないですかね。休みの日にもっと寝ていたくても、決まった時間に起こしに来るのは猫のほうですもん。ちょっと、ずるいでしょ。いつもは気ままに寝ているくせに、人が休みのときに起こしに来るなんてって(笑)。
加藤 確かに。明らかにお腹がすいていますね。
谷村 そうですよね、あとは遊んでほしいと。
加藤 私、ああ、飼い主って猫にとって自動販売機なんだな、って思うんです。
谷村 だったらコイン入れてくれたらいいのにね(笑)。
結局、よくわからないことが猫の魅力
谷村 加藤さんに寄せられる猫の質問ってどんなものが多いんですか?加藤 極端に言えば、うちのコ、何考えているんでしょうか、みたいなことですね。人間でもダンナとか彼女とか、異性のことはよくわからないのに、ましてや種の違う猫なんだから、すべてをわかるわけない、わからなくてもいいのよといつも言うんですけどね。
谷村 そうですか? 私は加藤さんの本によって猫への理解を深めさせてもらっていますよ。加藤さんが、猫に光を当ててくれ、猫の中に宿る野性味を教えてくれたという感じです。
加藤 私は家畜というくくりに興味があります。野生動物が家畜になったときに別の生きものに変わる。変えたのは人間だからこそ、つき合う責任があると思うんです。本当に野生の猫だったら単独生活者だから、ひとりで生きていくから放っておいて、ということで「かわいらしさ」はないでしょう。ときどき見せる野性味ももちろん魅力的ですが、いつまで経っても依存してくるからかわいいわけで、そこに絆が生まれるならば、猫ってかわいくてなんぼという気がしています。
谷村 猫が何歳になっても、ごはんをあげて、トイレの掃除をして、世話をして過ごすんですけど、いろいろな間(あわい)がありますよね。猫度が高い猫と人間度が高い猫というか、猫に野性味を求める人と、かわいらしさを求める人、そこは好みが分かれます。何がかわいいかは人それぞれ違うと思うんです。
加藤 谷村さんは人間度の高い猫が好きなんじゃないかと思うんですが、どうですか?
谷村 うーん。当初は、猫ってすごいなという野性味に惹かれていきました。チャイは初恋みたいなものだったので、わあ、こんなにジャンプできるんだ、みたいな感じ(笑)。でも、歳を重ねていくうちに、もっと愛おしくなったのかな。チャイの背中が丸くなりよぼよぼになっても、チャイが私にそう見せていなかった。チャイがいろいろなことを教えてくれ、それがミーミーとの今につながっています。大学で動物を学んでいたときよりもいろいろなことがわかった。それは勝手に私が託していた物語もあるかもしれませんが、最後まで一緒だったので、ひととおり見せてもらえたというのはありますね。でも、わからないこともまだまだありますが。
加藤 私は猫を見ていても、“結局本当のところは何もわからない”ということがよーくわかるという感じがします(笑)。
谷村 それはいい話ですね。
加藤 わからないんだという経験をさせてくれるというのが非常にいい存在だと、最近つくづく思います。