この日の対話では幻聴に苦しむCさんが、日中、つながる場がなく、幻聴とだけ付き合っている状態にあることが判明した。向谷地さんはそこでみんなに呼びかける。
「何かこの辺の社会資源で、彼女に紹介できるところ、ありますか?」
すると、あちこちから手が上がった。
「○○区のデイケア、オススメです」「私、グループホームから教会に行ってるんですけど、そこの牧師さんがべてるの家に研修に行って、自分の地域でべてるを作りたいって言ってます」「毎週、ヤマダさんちでホームレスの人に配るパンやオニギリ作りやってます」「○○区に、お茶飲んでご飯食べてまったりする女性限定の居場所やってるとこあります」
一人、「パワハラ幻聴さん」と孤独な闘いを続けてきたCさんは、なんだかぽかんとした顔をしていた。「自分の助け方」を知る当事者研究は、「誰かを助けることができるスキル」を持つ当事者がたくさんいるのだ。いわば「生きづらさエキスパート」がそろっている。そんな人たちが、自分たちの持つ情報を困っている誰かに惜しみなく与える姿は、とてつもなく優しく、そして美しかった。
この日の当事者研究は、3時間ほどで終わった。数時間の参加で、私の中の「正常」とか「異常」、そして「病気」と「病気じゃない人」の概念がガラガラと崩れていった。なぜなら、彼ら彼女らの悩みや苦労は普遍的で、私自身、幻聴こそないものの「ねばねば病」や「優等生誤作動」「比較誤作動」はいつも傍らにあるからだ。
べてぶくろの当事者研究は、毎月第1土曜日に開催されている。生きづらさを感じた時、住宅街の路地奥にある一軒家の門をたたくと、たくさんの「生きやすさのヒント」に出合えるはずだ。
次回は9月3日(木)の予定です。