それでも返せない1割の延滞者に対して、14年5月、「防衛省でインターンシップ(就業体験)をさせたらどうか」とおぬかしになった人がいた。それは経済同友会の前原金一氏。文部科学省の「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」でのことだった。
この発言には、「まるでアメリカの経済的徴兵制だ」という批判がわき起こる。03年に始まったイラク戦争に大量に動員された中には、大学の奨学金をちらつかされて軍隊に入隊した貧困層の若者が多くいた。米軍はそうやって兵士を確保したのだ。
「日本では安全保障法制の成立以後、高卒者の就職状況がそんなによくなっていないにもかかわらず、自衛隊応募者が減っています。そうしたら、アメリカと同じようなことを考えるのは自然というか、論理上、それはやるだろうと。そういう点では体の商品化どころか、命の商品化ですよ」
前原氏の「インターン」発言から2カ月後の14年7月、集団的自衛権行使容認の閣議決定がなされ、15年9月に安保法制が成立。16年3月に施行され、自衛隊はいつでも海外に送り出せる存在となった。
戦争は、最大の貧困ビジネスだ。米軍兵士の多くは奨学金目当ての貧困層。そんな兵士を支えるのは、世界中の最貧国から集められた月収10万円程度の戦場出稼ぎ労働者。イラク戦争では、給食から清掃、洗濯、郵便業務、警備などありとあらゆる業務を民間企業が請け負った。そんな戦場出稼ぎ労働者からは多くの死者が出た。が、当然「戦死者」にはカウントされない。
そんな話になった時、大内氏は言った。
「そういった戦争もありますが、ある意味で今の若者の置かれている日常も戦場になっている。ブラック企業もブラックバイトも戦場です。自衛隊や防衛省の付近にだけ戦場があるわけじゃない。安保法制に反対して『9条守れ』という運動はあったけれど、憲法や人権の問題がしっくりこないという若者もいる。なんでかって、毎日人権無視の状態で働いている人からしたら、『人権』なんて言われても何の実感もないじゃないですか」
6月24日、厚生労働省が発表した平成27年度「過労死等の労災補償状況」によると、過労死(脳・心臓疾患)での労災請求は795件。一方、過労などが原因で精神障害となり労災申請をした人は過去最高の1515人となった。ちなみに若者に限ってみると、過酷な労働でうつ病や自殺に追い込まれる人の数はこの15年で10倍にも増えている。
奨学金やブラックバイト問題から、気がつけば話題はこの国の「戦場性」、そして安保法制成立後にリアルになった「経済的徴兵制」にまでおよんでいた。
が、ここにこそ、今の社会を読み解く大きなヒントがあると思うのだ。