その上、震災からわずか1週間で営業を再開した店があったということは、震災による傷を癒す暇もないまま夢中で仕事をし、毎日客を癒し続ける日々に突入したということだ。
彼女たちは、心身ともにどれほど疲れ果てているのだろう? そう思うと「なぜ、男性への癒しだけがこれほど優先されているのか」と素朴に疑問に思うのだ。
なぜならこの時期、同じように家族や家や仕事やすべてを失った女性たちの中には、避難所で毎日、大勢の被災者の食事作りに追われていた人も多いからだ。すべてではないが一部の避難所では、家事の延長のように「女の仕事」と思われていることがそのまま女性たちに押し付けられていた、という構図。震災と津波でどれほど町が破壊されようとも、「食事作りは女の仕事」という思い込みだけは1ミリも揺るがなかったという話はあの頃、多く耳にした。
ちなみに、私は「非常時に風俗に行くなんてけしからん」という話をしているわけでは決してない。また、風俗に行った男性は一部だということもわかっている。
ただ女性への「癒し」など、あの時期のあの場所には欠片も存在しなかったように思えるのに対して、男性の欲望へのケアは産業としていち早く成立していたという事実に、何だかものすごくもやもやしてしまうのだ。なぜならその欲望のケアに、女性は不可欠な存在だから。
日本は世界で最も男性向けの性的サービスが充実している国である。しかも性欲だけでなく、人肌が恋しいとか、精神的に追い詰められているとか、「誰かに触れてもらうことで自分の存在が許されていると信じたかった」とか、そんな時に「手軽」に利用できるものである。翻って、女性にそんな場があるかというと、私は思い当たらない。
別にそういうものを「作れ」とか「欲しい」と言ってるわけではない。ただ、ここにもまた非対称性が潜んでいるということを再確認しているのだ。
そして、そんなふうに男性が優遇されているように見える社会だが、この国で最も自殺者数が多いのは中高年男性でもあるというのもまた、事実なのである。
そう思うと、日本ってやっぱり、いろいろと変な国だ。
次回は4月4日(水)の予定です。
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