赤ちゃんは、すぐに腹を空かせて昼も夜もギャアギャア泣きわめきます。私は、せっかく産ませてもらった小さな我が子を殺すことも出来ず、ミルク泥棒を始めたのです。とにかく、この子が何かを食べれるようになるまで、一年間悪い事をしました」(同書)
確かに泥棒は悪いことだが、そもそもなんで舅、大切な孫のミルク代くれないの? 夫もなんで、妻と子を守ってくれないの? 理解できないことばかりだが、全編にわたって「家父長制のもとの不条理」がまかり通る。
「昔はミルクなんてなかった」「今の嫁は楽をしている」。そんな言い分で泣くのはいつも、女と子どもだ。ちなみに多くの嫁が自らの財布さえ持っていなかったそうだが、万引きする女性の家は多くが「豊作に恵まれた中流農家」(同書)だったという。ただ、「嫁」だけが1円も自由にならない身なのだ。
こんな現実が、たった数十年前まで、日本各地の農村に存在したのである。もちろん、出てくるのはひどい話ばかりではないが、全体的には女が人間扱いされていない時代であることがよくわかる。
ちなみに最近、この話をある米どころの県でしたところ、50代の女性が「子どもの頃、豪農だった友人の家には、妻と妾が同居していた」とさらりと言った。妻と妾が同居とか、もっともっと昔の話だと思ってたんだけど……。
女が人間扱いされない場所では、子どもの命も軽くなる。「男」で「年長」という理由だけでオッサンをのさばらせていると、呪いは再生産され続け、そしてそれは実害を発生させ続ける。
生きづらさを感じていない、という高校生との対話から、戦後73年間のこの国の女性たちに、今、改めて思いを馳せている。
次回は2019年1月9日(水)の予定です。