入学のための手続きの話をされ、辞退するなら受験料だけ返還すると言われたという。結局辞退すると、19年2月に6万円が振り込まれ、やはりそれっきり。その昭和大学については第三者委員会の報告書も公表せず、どういう経緯でAさんが落とされたのか、説明すらないままだという。
これらの多くが、受験直前や受験が始まっている最中に対応を迫られたのだ。
東京医科大学から、実は合格していたと知らされた時のことを、Aさんは以下のように語った。
「入学意向確認書が届いた時、自分も不正に落とされていたのだという絶望感をさらに味わいました。2年目の受験が終わった時に絶望し、苦しみ、それでも受験を続けていたこの1年間はなんだったのかと」
「不正入試が明らかになり判明したのは、私の学力や医師になる資質が不十分だったからというのではなく、私が女性でかつ18、19歳の受験生ではなく、親族に医師がいなかったから、という理由で不合格にされたのだということです」
「手元に合格通知が届いた時も、喉から手が出るほど欲しかったものなのに、正直、あまり嬉しくありませんでした」
「各大学からの答弁書も届き始めていますが、私たちは悪いことをしていたという認識はないけれど、指摘されてしまったから仕方なく、という姿勢にはまったく誠意が感じられません」
そうして意見陳述の最後、彼女は提訴した理由を述べた。
「1年間という時間をムダにし、本来必要のないお金もかかり、医師になるのが1年遅れたにも関わらず、その補償が実費だけ、受験料の返還だけ、というあまりに不十分で不誠実な対応をされたから」
「2点目として、今後、不正入試を起こさないための再発防止対策が不十分であるということです。いまだに第三者委員会の報告書を出していない昭和大学、最終報告を出していない順天堂大学にはきちんと報告書を公表、再発防止対策を提示して頂きたいと思っています」
裁判の後、Aさんと初めて話した。名刺を渡すと私の名前を見て、抗議に行ったことを知ってくれていた。
「ありがとうございます」という彼女の言葉に、デモとかに行ったことで誰かにお礼を言われたのって初めてかもしれない、と思った。逆にいつも、「うるさい」とか「そんな暇あったら働け」とか、見知らぬ人に罵倒ばかりされている。最近はそこに「日本人じゃないだろ」というヘイトまで加わる。
だけどあの日、「他人事じゃない」と思った女性たちが医大前に駆けつけた。それが報じられ、Aさんにちゃんと届いたことが、心から、嬉しかった。そうか、ちゃんと嫌なことに嫌と声を上げていたら、当事者に伝わるんだ。そうしてそれが、裁判につながった。
意見陳述を、「とても緊張しました」と笑うAさんは今、3大学とは別の医大生だという。今はまだ出会ってなくても、私たちはつながってるし、支え合っている。
そうしてこの裁判から約1週間後、嬉しい報道を目にした。 Aさんの裁判でも「いつ出すのか」が問われていた「昭和大学の第三者委員会の調査報告書」がホームページで公表されたのだ。報告書は、「一部の繰り上げ合格者の男女比に『合理的理由を見いだすことができない』差があるとし、女性差別があった可能性を指摘した」(朝日新聞、19年9月14日朝刊)。
東京医大前のアクションから、一年。事態は確実に動いている。
次回は11月6日(水)の予定です。