「新型コロナ災害緊急アクション」にも、そんなシェアハウス住まいの人からのSOSが届いているのだが、その中には、あまりにも入居者に不利な契約を結ぶシェアハウスもあった。20代女性からのSOSを受け、連日、緊急出動している「反貧困ネットワーク」の瀬戸大作氏が対応したケースだ(「コロナ影響で顕在化した悪質シェアハウスの実態」20年6月20日)。
それによると、1カ月でも家賃を滞納したら家賃保証会社が債務請求を繰り返す旨の内容が明示され、実際、コロナでバイトが激減し、家賃を1カ月滞納してしまった女性には、連日督促電話がかかり、訴訟を起こすと脅されていた。また、契約には、2年間住まずに転居する場合、退去時費用として計10万円が請求されるなどの記述もあったという。それだけではない。契約書とは別に「肖像権承諾書」の同意書も締結させられていた。
なぜ、シェアハウスに住むにあたって肖像権云々という言葉が出くるのか? 一方、入居してインタビューを受けると初回月賃料無料になるものの、2度目のインタビューを受けなければあとで返還請求されるということだった。
女性限定シェアハウスのサイトを見ると、オシャレでキラキラした毎日を切り取ったような写真が並ぶものが多い。入居者は、シェアハウスでのパーティーや交流に触れ、「ここに住み始めてよかった」などとインタビューで答えている。そんなものを見ると「シェアハウス、いいかも……」なんて思うが、一部のインタビューはこういうからくりのもとでなされているのかもしれないと思うと、途端にすべてが嘘っぽく見える。
このような、居住に関する脱法的な手口は何も新しいものではない。リーマンショックの前後は、「ゼロゼロ物件」が「貧困ビジネス」と大きな批判を受けた。敷金礼金ゼロを謳うものの、家賃を数日でも滞納したら鍵を交換されてそのまま締め出されてしまったり、高額な違約金を請求されるなどが相次いだのだ。このようなことがまかり通った背景には、ゼロゼロ物件の契約が賃貸契約ではなく、「施設付鍵利用契約」などのトリッキーなものだったことがある。鍵の利用権に部屋が付いているという契約だったのだ。
このようなやり口は当然大きな批判を受けたものの、その後、不安定居住として問題となったのは「脱法ハウス」。レンタルオフィスや貸し倉庫を2〜3畳のスペースに仕切り、貸し出すものだ。初期費用も安く家賃も普通の賃貸ワンルームよりは安いが、もともと倉庫だったところを居住用として貸し出しているので、消防法や建築基準法などに照らすと違法性が高い。この脱法ハウス、国交省 が調査と規制に乗り出したことによって閉鎖されていった。
さて、この10年間、このようにゼロゼロ物件や脱法ハウスが批判されてきたわけだが、シェアハウスは批判されることなく、市場はどんどん拡大していった。一般社団法人「日本シェアハウス連盟」によると、19年の時点でシェアハウスは全国に4867棟、部屋数は5万6210室。私の周りにもシェアハウスに住む人は多いし、そこでの交流を楽しみにしている人もいる。
しかし、残念ながら一部には悪質なシェアハウスも存在する。
国交省はシェアハウスの入居者や入居経験者にアンケートを行い、市場動向調査結果 を公開している。それによると、回答者の5割強が女性、また4割が20〜25歳とのこと。事業者も5割弱が「圧倒的に女性が多い」と回答し、最多年齢層として25〜30歳と答えている。
入居者の就業形態はというと、正社員が32.8%、学生が28.3%、アルバイトが12.2%。入居時の平均月収は「収入なし」がもっとも多く18%、15〜20万円が16.9%、10〜15万円が16.6%となっている。入居した動機については、回答者の4割以上が「家賃が安いから」と答えている。
そんなシェアハウスの家賃は、個室だと5〜6万円が29.0%、4〜5万円が24.6%、6〜7万円が18.8%。
先ほど非正規女性の平均年収が154万円であることを書いた。が、正社員でも20代女性であれば年収200万円台というのは一般的だ。よくシェアハウスは「若い女性に人気」と言われるが、若年女性の中にはシェアハウスに住むしか選択肢がないという人も多くいる。また、一般の賃貸物件のように入居審査が厳しくないのも魅力だろう。
現在、非正規で働く人々やフリーランスは、賃貸物件の審査に落ちることが少なくない。よって一般の賃貸に住みたくてもシェアハウスしか借りられないというケースもあるだろう。
そんな「女性の非正規化」「貧困化」というニーズに応えるようにして増え続けてきたシェアハウス。ここがわずかな滞納で追い出されるなど「ホームレス化の入り口」にならないよう、注視していきたい。そして住んでいる人は今一度、契約内容を確認してみるといいだろう。
4月頃から、都内の各地の炊き出し(ホームレス状態の人に食事をふるまう場)に行っているのだが、リーマンショックとの大きな違いは、炊き出しに女性が並んでいるということだ。一人で、夫婦で、カップルで。そんな光景を見ると、女性には女性に特化した支援が今すぐに必要だと、切に思う。
次回は10月7日(水)の予定です。