新型コロナウイルスの感染が再び拡大し始め、東京での感染者が連日200人を超えるようになった2020年7月後半頃から、困窮者支援の現場は再び「野戦病院」の様相を呈している。
「ネットカフェにいたけど、とうとう所持金が尽きた」
「もう200円しかない、どうしていいかわからない」
「何日も食べてない」
そんなメールに、猛暑の中、支援者たちは緊急出動する。住む場所がない人には緊急宿泊費と数日分の生活費を渡し、後日、生活保護などの公的な制度につなぐのだ。
3月、貧困問題に取り組む30ほどの団体で「新型コロナ災害緊急アクション」を立ち上げて約半年。活動を支えるのは、「反貧困緊急ささえあい基金」に寄せられた寄付金だ。これまでに600世帯、1000人以上に約2000万円の直接給付を行い、多くの命をギリギリのところでつないできた。
私もボランティアの一人として緊急出動することもある。支援者と出会っていなければ、今頃、東京の路上で餓死していたかもしれない。そんな人々に多く出会ってきた。
その中には、公的な制度から排除されてしまう外国人も多くいる。働くことが認められていない「仮放免」で在留資格がない人も多い。体調を崩したり、歯痛を訴える人も多いが、健康保険がないために病院にも行けないという人も少なくない。一刻も早く帰国したいが、就労を禁じられているので飛行機代を稼ぐこともできない。
そんな現実を知れば知るほど、困窮する外国人には公的な支援制度が必要だと切に思う。というか、そもそも日本人外国人問わず、国が十分に役割を果たさないから、民間の支援団体がボランティアでフル稼働しているのだ。
もともと、この活動は「つなぎ」のはずだった。少し経てば、国から支援策が打ち出されるだろうから、とにかくそれまで、なんとか死者を出さないようにという思いで始まった。が、コロナ禍が始まり半年が経とうとしているのに国は有効で十分な支援策を一向に打ち出そうとしていない。
そんな状況を受け、8月19日、「新型コロナ災害緊急アクション」は政府交渉を行った。外国人への支援が緊急に必要なこと、生活保護を申請したら保護決定を早くすること、また住民票のない人にも特別定額給付金10万円を給付することなどを、厚生労働省、総務省、国土交通省 、文部科学省、法務省などに要求し、交渉したのだ。しかし、先方は「検討します」と繰り返すばかり。
「死んでも仕方ないってことですか?」
3月から休みなしで外国人支援に駆けずり回る人々が声を荒げた。辞任を発表する直前、安倍晋三首相が147日休んでいないなどとと話題になったが、困窮者支援の現場では、支援者たちが3月頃からまったく休みなしでフル稼働している。安倍首相には数千万円の歳費があるが、支援者たちは休みなく働いても1円にもならない。
さて、今、現場で動いている人の多くが08年の「年越し派遣村」などでの支援経験者だ。私もその一人。よって「失業してホームレスになりそう」という人たちの支援のノウハウが蓄積されている。しかし、そんな中、当時と違うのは相談者に女性が多いこと。
08年、リーマンショックで派遣切りされた人の多くは製造業派遣の男性だった。よって年末の「年越し派遣村」には、寮を追い出されるなどした男性たちが500人以上、集まった。しかし、コロナ禍の今、全国一斉で何度か開催してきたホットラインに電話をかけてくる人の男女比は、私の印象では半々ほど。また、SOSメールをしてくる人の3割ほどが女性だ。
それもそのはずで、まずコロナ不況は非正規を直撃したわけだが、働く女性の55.3%が非正規(厚労省)。ジャーナリストの竹信三恵子氏は、『ビッグイシュー日本版』20年8月15日号のインタビュー「“女性活躍小国”日本で起こっていること」で、以下のように語っている。
〈……特に対人サービス業は非正規の女性が多く、もともと不安定なところに業界が痛手を受け、短期雇用の契約を結んでいた彼女たちが真っ先に切られたというわけです〉
同インタビューには、男女別従業員の構成比も掲載されている。それによると、医療・福祉の72.8%、宿泊業・飲食サービス業の58.9%、生活関連サービス業・娯楽業の57.5%を女性が占めているとのこと。そんな女性非正規は、前年同月と比較して3月には29%、4月には71%も減少しているという。どうりで女性からの相談は多いわけだ。
ちなみにこれを裏付ける数字もある。「新型コロナ災害緊急アクション」に参加するNPO法人「POSSE」(ポッセ)と、「POSSE」が連携する「総合サポートユニオン」には、3〜8月まで2869件の労働相談が寄せられているという。うち派遣労働者からの相談は424件。そのうち65.6%を女性が占めるという。雇い止めの相談だけで約30%になるという。
ちなみに、非正規女性の平均年収は154万円(18年国税庁調べ)。これでは貯金も難しい。これまで私が対応した相談者の中には、フリーランス女性も多くいた。ヨガやジムのインストラクター、エステティシャンなど。また、風俗の仕事をしていたものの、2月から客が激減。それなのに高額な寮費を請求され続けているが払えず、近々追い出されるという相談も受けた。この女性は、3.11(東日本大震災)の時にも同じような目に遭っている。被災地ではないものの客が激減する中、寮費を払えずに追い出されてしまったのだ。寮にある荷物を取り戻すことはできなかったという。
コロナ不況の中、多くの女性たちが喘いでいる。
少し前の日本では、職を失ったことくらいではなかなかホームレス化しなかった。貯金があったり実家に帰ったり、はたまたしばらく滞在させてくれる友達がいたり。
08年の「年越し派遣村」の「村長」だった「反貧困ネットワーク」事務局長の湯浅誠氏は、このようなものを「溜め」と表現した。貯金や頼れる人間関係、泣きつける家族(家族福祉)や手厚い福利厚生などの企業福祉があったからそうならなかった。しかし、失われた30年の中でそれらは急速に消え去り、今や誰もがホームレス化してもおかしくない。そして今、女性までもが路上に出る危機に晒されている。
新型コロナウイルス感染症による経済停滞が始まり、真っ先に路上に出たのは居住が不安定な層だった。仕事がなくなったネットカフェ生活者や職場の寮を追い出された人々。一方で、ちらほらと見かけたのは「シェアハウス」を追い出されたという人だ。保証人不要、敷金礼金ゼロを謳うなど初期費用も安く、女性限定の物件などもあり近年もてはやされているシェアハウスだが、コロナ禍の中、1カ月の滞納で追い出すなど利用者にかなり不利な条件での契約が一部でまかり通っている。