なんでも東海林さん、最近は韓国ドラマにハマったそうで、『梨泰院クラス』の俳優のカレンダーを買ったという話が始まったかと思ったら、タイのBL(ボーイズラブ)のドラマも見るようになり、そこからBL小説も読むようになって「沼落ち」したという具合に、話はオタク・腐女子方面に急展開していくではないか。
私は耳を疑った。これが88歳の日本人女性の口から語られている台詞なのか? しかも真っ昼間の地上波だ。今、私はコロナの熱に浮かされて夢を見ているのではないのか?
しかし、我らがロッキンママは88歳でのBLとの出会いを「それはもうね、楽しいです」と嬉しそうに語り、「沼落ち」という言葉を繰り返す。徹子氏は「沼落ち」という言葉にツボったようで、何度も繰り返しては「もう、いやだぁー」と顔を赤らめて笑っている。なんだか少女が2人、ドキドキしながら秘密を共有しているような花園感が画面越しに伝わってくる。なんだこの、キュンとする感じ……。
話はそこから「最近骨折した」という年相応っぽい話になり、「やれやれ、祭りも終わったか……」としばし呼吸を整えていたのだが、そこからもまた話題はイケメンの方向に自動的にシフト。なんでもリハビリをしてくれる理学療法士がイケメンな上にとても親切らしく、彼に会うのが嬉しくてリハビリを頑張っているというではないか。その結果、骨折して上がらなかったという腕が見事に上がるようになったと東海林さんはその場で腕を上げて成果を披露。
イケメンの力、恐るべし。が、私は別の意味で衝撃を受けていた。ここまで臆面もなくイケメンが好き、イケメンに励まされる、イケメンは宝というようなことを言ってしまっていいのだと。
いや、私もイケメンが好きだ。じゃなきゃ、30年以上もヴィジュアル系にハマっているわけはないのである。特に化粧が濃くて派手髪の綺麗なお兄さんが歌ったりギターを弾いたりしてる姿が大好きだ。しかし、昨今は「イケメン最高」などと言おうものなら「ルッキズム」という批判をされかねない時代。なんとなくここ数年、「イケメン好き」を公言するのを控えていたのだが、東海林さんは堂々とイケメンを礼賛なさっているではないか。もうあの立場で米寿にもなれば治外法権というか、何を言ってもいいようである。なんだそれ、最高じゃないか。
さて、そこで話は終わらない。
なんでも最近88歳の「米寿」のお祝いをしたらしいのだが、そこにLUNA SEAのメンバーが来てくれたというではないか。10代の頃から熱烈なSLAVE(LUNA SEAファンを指す)だった私にとっては気が遠くなりそうなほど羨ましい話だが、その場で東海林さんはLUNA SEAのメンバーに「バックハグ」をしてもらったというではないか。後ろから抱きしめてもらうという、アレである。
なんでも海外ドラマなどでバックハグを見て憧れていたそうだ。ファンとしては、一体LUNA SEAの誰にバックハグしてもらったのか、なぜそのメンバーを選んだのかというところがもっとも気になるところだ。が、そこには触れられず、しかし、畳み掛けるように東海林さんは、90歳・卒寿のお祝いでは「お姫様だっこをしてほしい」とはにかみながら口にしたではないか。
それを聞いた瞬間、私の脳内で盛大なファンファーレが鳴り響き、巨大な花火が打ち上がった。
なんて可愛い人なのだろう。私が10代の頃からブッ飛んでいたけれど、さらにパワーアップして自由になっている。こんなに好き放題、やりたい放題にバンギャの夢を叶えている人が有史以来、この世に存在したであろうか? もう痛快すぎてリスペクトしかない。
番組を見終わった頃、私の老後の目標は明確になった。「目指せ、東海林のり子」である。
ということで、「東海林さん」という老後の目標ができて初めて気づいたことがある。それは、「ロールモデルとなる高齢の女性があまりにも少ない」ということだ。
例えば10代の頃は、アーティストでも芸能人でも、憧れの女性はたくさんいた。しかし、40代の今、「こんな60代、70代、80代になりたい」というような女性がいるかと言えば浮かばない。というかそもそも、憧れる対象はメディアで知ることが多いわけだが、高齢の女性でメディアに出ている人は圧倒的に少ないという事実がある(その中で高齢女性が出ている率がもっとも高いのが『徹子の部屋』)。
一方、テレビなどを見ていると、高齢の男性はむちゃくちゃたくさんいる。政治家の多くがそうだし、テレビの司会やコメンテーター、俳優なんかも大勢いる。そんな光景を見ていると、若さばかりがもてはやされる女性との非対称性にため息が出てくるほどだ。
さて、その中でも比較的メディアに出ていた人と言えば、21年に亡くなった瀬戸内寂聴さんだろうか。しかし、「ロールモデル」になるかと言えば、彼女は約半世紀前に出家済み。生き方を真似るにはハードルが高すぎる。しかも他界してしまい、さらに遠い世界の人となってしまった。
他に浮かぶ人と言えば、緒方貞子さんとかだろうか。しかし、国際政治学者で日本人初の国連難民高等弁務官とか、経歴がすごすぎてなんの参考にもならない。
他にメディアで見かける高齢の女性と言えば上皇后さまくらいではないだろうか。皇室なので、やはりモデルにはならないだろう。
ということで、東海林さんという理想ができて気づいた、高齢女性のロールモデルが少なすぎるという問題。が、このジャンル、絶対にこれから需要が高まるに決まってる。私はもっともっと、「先輩」女性たちが何を思い、何を楽しみにしてどんなふうに暮らしているか、非常に知りたい。それなのに、世間の高齢者イメージはといえば、病気と墓と終活とゲートボールと盆栽みたいな、そんなものではないか。