さて、今出した固有名詞がすべてわかる人もいれば、なんのことだかさっぱりという人もいるだろう。ちなみに私の場合、10代の頃からメンタルの調子が悪く(きっかけはやはり部活の暴力といじめ)、20代なかばまでリストカットを繰り返し、自殺願望強めだったことからメンタル系の書籍を読み漁ってきた。その結果、「自分がヤバくなったらこうしよう/ここに頼ろう」という知識がついていったのだが、このような知識をみんながみんな持っているわけではないと気づいたのは30代後半の頃。
きっかけは、アラフォーにして初めてできた「陽キャ」友人との出会いだった。先に「この10年ほどは少しは身体を動かす生活になっている」と書いたが、これはそんな陽キャとの出会いによるものである。
ちなみにそれまでの私には、隠キャで文系の友人しかいなかった。よって、海や山やスポーツなどのアウトドアなど異次元のもの。趣味は読書と映画鑑賞みたいな友人たちとぼちぼち楽しくやっていたのだが、ひょんなことからできた陽キャ友人は私を異世界へと連れ出してくれた。
ちなみに陽キャは社交性が高いので、一人と出会うと芋づる式に陽キャ友人が増えていく。そのことにも面食らったのだが、なんと言っても驚いたのはみんなが「身体を動かしまくっている」ということだった。少しでも時間があればジムで汗を流し、当たり前のように海に行き、日の光をたっぷり浴びてマリンスポーツを楽しむ。身体にいいものとかも積極的に取り入れる。自分の健康や体型を保つことに、当たり前に時間とお金をかけているのである。
そのことは、私には衝撃だった。まずは何しろ10代から隠キャ、バンギャ(ヴィジュアル系バンドが好きな女子の総称)として生きてきた身。バンギャにとって日焼けなどもってのほか。日の光を憎み、地下の暗いライブハウスで「死にたい」と言うことをライフワークにしてきたような女だ。自分を大切にするとか健康のために何かするとかそんな意識は毛頭なく、自分を粗末に扱うのがデフォルト。が、陽キャたちは当たり前に自分を大切にし、ケアに余念がないのである。なぜ、そんなに自己肯定感が高いのか。なぜ、自分にお金をかける価値があり、自分を大切にしようとナチュラルに思えるのか。そこから謎すぎたが、陽キャたちは、私が自分を「大切にしていない」ことに気づかせてくれた。
そうして30代後半から、私も身体を動かすようになっていく。誘われれば海に行ったり、やはり誘われるままジムやヨガに行ったり。
そんな場で、生まれて初めて、強制的にやらされるのではなく、自分の意思で「運動」をした。初めての「身体を動かすこと」は、思いのほか、よかった。
なんと言っても部活と違って、突然怒鳴ったり殴りかかってくるヤバい大人がいないのだ。そう、私が嫌いだったのは「身体を動かすこと」ではなく、「ちょっとのミスで突然ブン殴ってくるヤバい奴」だったのである。
が、当然ながらジムで客にそんなことをする人間などいない。誰も怒鳴ったり殴ったりしないどころか、優しく丁寧にいろいろ教えてくれるではないか。
そうして、気付いた。私はスポーツが嫌いなわけではなかったのだと。このことは、天地がひっくり返るほどの衝撃だった。
そうやって身体を動かすようになってわかったことがある。それは、運動しないとメンタルを病みやすいということだ。特に私のような物書きは一日中家にいる。3日間、誰とも会わず口を利かないなんてこともある。そうなると、何が起きるか。例えばちょっとでも嫌なことがあると、一日中、ずーっとそのことばかり考えてしまうのである。下手したら1週間、同じことをぐるぐると考え続け、鬱々と過ごすこともある。だけど、身体を動かすと、そんなモヤモヤは吹き飛ぶではないか。というか、筋トレなどのキツさが思考を無にしてくれる。メンタルのキツさが身体のキツさに凌駕され、マイナス思考から解放されるのだ。
と、ここまで書いて、それってリストカットと同じじゃん、ということに気がついた。過去にリストカットしてた頃、私は「心の痛みを身体の痛みに誤魔化すために」していたのだ。え、待って、それって筋トレと一緒じゃん。筋トレって、健康的なリストカットだったの? 今私、すごい発見してない?
ということで、これについてはまた深く考察したいが、とにかく体を動かしてたらメンタルは前より安定してきたのだ。
ということを、青山さんの本を読んで、改めて思い出したのだ。
彼女も身体を動かすことによって事態が拓けていくのだが、そこで紹介されている言葉が素敵だ。それは内田樹(たつる)氏の「身体のほうが頭がいい」という言葉。この言葉に深く頷く人は多いだろう。
さて、このようにして「普通の隠キャ」だった私は、今、「隠キャ界の陽キャ」くらいにはなっている。このようなことから陽キャとの出会いに感謝しているのだが、そんな陽キャから感謝されることもたまにある。
それは、陽キャ界隈からメンタル不調者が出た時のこと。私の周りの陽キャは、マリンスポーツや世界のリゾートに詳しくても、メンタル界隈のことには非常に疎い。それだけでなく、普段、心身共に元気すぎるゆえにメンタルの病に対するタブー感があったりする。
が、そんな時こそ私の出番。10代からの生きづらさのプロとして、いろいろなクリニックやしかるべき窓口に繋いできた。
私は陽キャに身体のケアを教えてもらい、陽キャは私にメンタルケアのもろもろを教わる。異文化交流って本当に大事だ。
もうひとつ、気付いたことがある。それは唐突すぎるが「冷笑系」について。
私は20代の頃、当時流行っていた1990年代サブカルにどっぷりハマり、そこそこ長い期間を「冷笑系」として生きてきたのだが、それは「昭和の学校」トラウマから派生したのではないかということだ。