が、これには「支援措置」という制度が使える。虐待の被害者やDVやストーカー被害者が申し出れば、住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付などが制限される制度だ。親子や婚姻関係がある相手は住民票や戸籍の住所を見られるため、逃げた人が新しい居場所を知られないための制度である。詳しくはNHKハートネットの記事「虐待・DV 家族に住所を知られたくない人のために」(21年8月18日)を参照してほしい。リカさんも、この制度を使っている。
やっと安心できる居場所を手に入れつつあるリカさんに、子どもの頃、大人たちにどんなふうにしてほしかったか聞いてみると、彼女は言った。
「なんかしら、関わり続けてほしかった。私が『もういいです』って言ったらみんな引いたので。傲慢かもしれないけど、気にかけていてほしかった」
児童相談所は大量服薬をして保護された時は「わーっと来た」ものの、保護が解除された途端にいなくなった。親戚宅に住むようになってからも、伴走するような支援はなかった。中学時代、唯一相談できると思っていた先生には、「お母さんも頑張ってるのよ」と言われて心が折れかかった。大学生になってから出会った支援者にも、「ここまでしかできません」と線を引かれている感覚があった。
しかし、吉祥さんとの出会いは彼女を変えたようだ。「細く長く関わっていこう」と言ってくれて、時に怒ってくれる存在。もうひとつ安心できる居場所的なところもあり、今、リカさんは他者への信頼を取り戻しつつあるように見える。
が、当然、波はある。嫌なことがあったりすると、全部リセットしたくなる衝動が抑えられないこともあるという。住まいを失い、いろいろなところを転々としてきたので、トランク1個でいつでも逃げられる状態でないと安心できないようだ。それでも、彼女が手を伸ばせば、今は握り返してくれる人がいる。
まだ、20代前半。これまで大変だった分、たくさんたくさん幸せになってほしいと勝手に熱望している。頭の回転が速く、自分の気持ちを言語化することに長けている彼女がこれからどんな大人になっていくか、それを見るのも楽しみだ。
そして彼女と同じような境遇の「元子どもたち」が、もっともっと生きやすい社会になるよう、その小さな声に耳を澄ましたい。改めて、そんな決意を固くしたのだった。