伊藤 都知事選での「石丸現象」を見ると、最も支持率が高かったのは10代、20代でした。でも、その年代はそもそも投票率自体が低くて母数が小さいので、実際には30〜50代くらいの支持者がかなりいたんじゃないかと思います。いわゆる「ロスジェネ世代」以下ということですよね。
ひろゆき氏は子どもから人気だとよくいわれますが、それとは別に、やはり30代以上の支持者がかなり多いようです。もちろん若者の支持者もいるけれど、「若者現象」ではないと思います。
雨宮 むしろ「中年現象」というべきでしょうか。
伊藤 でも、今の中年は気持ち的には「若者」なのかもしれません。かつて、若者はいろんなことが流動的で落ち着かないけれど、中年になれば誰でもある程度は落ち着く、といわれていました。でもそれは、正規雇用で働いて、結婚して子どもができて……という多くの人に共通する流れがあったからです。今はその流れそのものとまったく無縁で、いつまで経っても「若者」という人も多いんですよね。
雨宮 「流動的で落ち着かない」ポジションからいつまでも逃れられない。私の周りでも、非正規雇用で結婚もしていなくて、気分的にはずっと若者、みたいな人はたくさんいますよ。
伊藤 社会全体で「中年の若者化」が起こっている気がしますね。
雨宮 ちなみに、「冷笑系」のオピニオンリーダーが支持を集めるというのは、日本だけの現象ですか。他の国でも同じようなことは起こっているのでしょうか。
伊藤 「反リベラル」という点では、たとえばアメリカのイーロン・マスクや、彼と一緒に「PayPal」を立ち上げた実業家であるピーター・ティールなどが似たタイプといえるかもしれません。2人とも、熱心なトランプ支持者として知られています。ティールは哲学を学んでいた大学時代、「反リベラル」の急先鋒でもありました。
ただ、日本の「冷笑系」と異なるのは、その主張がふんわりした「反リベラル」ではなく、強烈な思想性に支えられていることだと思います。
マスクやティールだけではなく、アメリカの反リベラルの一つの原点には、リバタリアニズム(自由原理主義)があります。自由を邪魔するようなものに対しては徹底的に拒絶する。そしてそれと同時に、社会の中で自分自身がどんどん力を付けて強くなって、社会そのものを変えていくんだという強い信念があるんですね。
雨宮 「社会を変える」ですか。
伊藤 リベラルは現在ある社会を前提にして、どう再分配によって人々の暮らしをよくするかを考える。でも、自分たちは今ある社会をもっと大きくすることで、貧困などの数ある問題を解決していく。そもそも今ある社会を前提にするのがリベラルの誤りなんだ、というのが彼らの主張なんです。そして実際に、彼らは実業の世界で社会を変えてきたという面もあるわけですよ。
雨宮 日本の「冷笑系」にはそういう人、いないかもしれないですね。
伊藤 そう、実業としてそれほど大きなことをやっているわけではないのに、「上から目線」で冷笑しちゃうみたいな感じでしょう。強烈な野心で社会を引っぱっていこうとする立場とは対極のところにいる。そこがアメリカの反リベラルとの違いだと思います。
(後編)に続く