30代後半の私のまわりには、いわゆる「幸せな結婚生活」を送っている人は一人もいない。わずかにいる既婚友人のうち、A子(OL)は結婚して家庭を築いていたものの、「とにかく酒を飲み歩きたい」という理由で一年ほど前に別居。現在、一人暮らしを謳歌している。もう一人の友人B子(無職)は、4歳になる子どもがいるのだが、やはり夫婦別居中。ちなみにどちらも、今のところ旦那と別れるつもりはなく、関係もそこそこ良好だ。
彼女ら同士は面識がなく、それぞれとよくお酒を飲んだりご飯を食べたりするのだが、2人には共通の「見習うべき点」があることに最近、気がついた。
それは、「嫉妬心がものすごく希薄」ということだ。
たとえばA子は、「仕事と飲み歩きに忙しい」という理由で、B子は「子育てや友達と遊ぶのに忙しい」という理由で、どう見ても旦那を放置している。そんな時、端から見ている私は「旦那の浮気とか、心配じゃないの?」と、ついつい余計なことを思ってしまう。だが2人は、「全然心配じゃない」とあっさり断言。それどころか、「むしろ浮気しててほしい」と言うことさえある。
ちなみに2人とも「他の男の影」は、みじんもない。
「別に浮気しててもいい」
旦那への愛がすっかり冷めているからこそ、そんな台詞が吐けるのかと思ったのだが、10年以上になる2人とのつき合いを思い出して、気づいた。私は2人の元カレを何人か知っているし、リアルタイムで「彼氏の話」などを聞いてきた。が、10年以上にわたるつき合いの中で、彼女たちから「嫉妬めいた感情」を感じたことが一度もないのだ。
これはすごいことだと思う。なぜなら私自身、女友達の嫉妬心にずいぶん振り回されてきたからだ。
突然入るSOS的な連絡。何があったのかと駆けつけてみると、「彼氏が浮気してるかもしれない」と泣きそうな表情の友人がいる、といったことは今まで何度かあった。
もちろん心配だし、いろいろ話を聞いたりする。しかし、嫉妬心が強い女子の場合、もうすでにわら人形に釘を打ちまくってるような、殺伐としたオーラをまとっていたり、いきなり逆ギレしたり、泣き出したりして、ちょっと手に負えない。とくに事実関係が明らかでない場合、話はずーっと同じところをぐるぐる回るばかりだからだ。
そのうえ嫉妬女子は、そんな時に、これまでまったく見せなかった「黒い部分」をいきなり全開にしたりする。彼氏のケータイを見たり、SNSを駆使して相手の行動や交友関係を洗いざらい暴こうとしていたり、という問題行動をさらっと暴露するのだ。
そういうところを知ってしまうと、なんとなく、こっちまで引いてしまうこともある。
そうして、さんざん話を聞かされた揚げ句、翌日に「ごめん、あの話、私の勘違いだった☆」という一言ですまされたりした日には、ちょっとした通り魔にでも遭った気分が込み上げる。このような理由によって、私は嫉妬女子からは距離を置いていたのだが、10年来の友人2人とのいい関係の背景には、「嫉妬心がほとんどない」という理由があったことに、今さらながら気がついたというわけだ。
では、なぜ彼女たちはそんなに嫉妬心が希薄でいられるのか。
A子に聞いてみると、「自分が束縛されたくないから。人間、自由が一番だから」とあっけらかんとした顔で言われた。確かにその通りで、彼女自身がどうしようもなく自由人。一人でオッサンだらけの立ち飲み屋に入れるうえに、海外旅行も一人の方がいい、という「一人上級者」な彼女は、楽しいことを見つける天才だ。
そしてB子に至っては、「昔から浮気されても全然平気だった」という。逆に、「自分の足りない部分を補ってくれてありがとう」とまで思うのだという。さらに信じられないことには、「3人で一緒に遊ぶのも大丈夫」。それぐらい、自信があるのだと胸を張る。
B子は、いわゆる「美人」ではない。ただ、いつもものすごくテンションが高く、一緒にいると、次の日は腹筋が筋肉痛になるほど笑わせてくれる。ある意味で、私は10年以上にわたって、彼女のファンである。とにかくB子以上に「一緒にいて気楽で面白い相手」は、たぶん生涯にわたって現れないだろう。
そんな自分のキャラを、B子自身もよくわかっているからこそ、「見た目とかで負けたと思っても全然平気」なのだという。
ちなみにB子は、元バリバリのギャル。そんなB子が嫉妬心が希薄な理由について、最近、妙に納得する話を聞いた。なんでも、ギャル全盛期の高校生の頃に、「卒業までに100人斬り」と数値目標を決め、無事達成。このような偉業を成し遂げたことによって、人生のかなり初期において、「もうセックスはいいや」という境地に達していたのだという。
B子は、今もギャルの名残を感じさせる服装だ。子どもの幼稚園の送り迎えなどに行くと、「露出が多すぎる」「ビーサンで来るな」などと、幼稚園の先生に怒られているのだという。
30代になっても、高校生の頃と同じ理由で怒られているB子。彼女を見ていると、嫉妬とかそんな感情以前に、「ちゃんと生きよう」という気分もあっさりなえていく。ちなみに彼女はこの前、私との約束の時間に8時間遅れてきたという、遅刻の常習犯でもある。だけど、ちっとも怒る気にならない。これはやはり、天才の域だ。
さて、そんな2人には、ちょっと会わないでいると「会いたいな」と思ってメールしてしまう。自由な2人から連絡がくることはめったにないけれど、こちらから会いたくなってしまう。と、そんな自分の行動を思い起こして、またしても気がついた。
これは「モテ」の基本ではないのだろうか。他人に自然に「会いたい」と思わせること。粘着質なところがなく、いつもあっけらかんと明るい人には、男女問わず、誰だって会いたくなるはずだ。
と、ここまで人のことばかり書いてきたが、私自身について言うと、嫉妬心が強いのか弱いのか、まったくわからない。ただ一つ言えることは、相手によって全然違うから困る、ということだ。あの人には全然嫉妬しなかったのに、どうしてこの人にはこんなに嫉妬してしまうのだろう……ということが、ままある。そしてやっかいなのは、それは決して「愛情と比例しない」ということだ。愛情というよりは、むしろ執着。そして執着を基本とした関係は、大抵の場合、お互いにとって不幸だ。
過度な嫉妬もせず、執着もせず、いい関係でいられること。
この一見簡単そうなことが、ものすごく難しいから、生きることは時に厄介だ。
次回は6月6日(木)、テーマは「続・嫉妬」の予定です。
嫉妬なき恋愛人生の考察
(作家、活動家)
2013/05/02