ちなみに私は、「嫉妬心にがんじがらめになっている時の自分」が一番嫌いである。ほかにも「人と比較して勝手に落ち込む自分」とか、「金銭に限らず、変なところでいきなりケチ臭くなる自分」とか、「毎日絶対飲みすぎて二日酔いな自分」とか、嫌いな自分はいろいろあるが、やっぱり最も嫌なのは、恋愛がらみの嫉妬心で勝手な妄想をふくらませ、悶々としている時の自分である。
そんな時の自分をあとで冷静になって分析すると、いろいろなことがわかってくる。
まず、「恋愛がらみの嫉妬の苦しみ」は、相手のことが好きで好きで仕方ないという動機で始まっているように思うが、よくよく考えてみると違ったりする。
私の場合、よくあるのは「暇だった」という理由だ。
暇なので余計なことを考えてしまい、もともとが後ろ向きなので「あの人が私のことを好きなはずはない」から始まって、「浮気してるのでは?」などと勘ぐり、「いや、その前にそもそも私はあの人にとってなんなのだろう?」「ていうか、絶対素敵な彼女がいるに決まってる!」「いや、もしかしてすでに結婚してたりして!」「そのうえ、隠し子もいる可能性だってある!」、という形で妄想はどんどんエスカレート。気がつけば「彼氏らしき人」は私の頭の中では「素敵な奥さんがいる既婚者で子だくさん、そのうえ超絶美人な愛人には隠し子もいる」なんていう昼ドラ的な設定になっていたりする。
これはすべて、「暇」のなせる技である。
暇以外にも、「嫉妬」の背景をじっくり探っていくと、様々な「自分の問題」が浮かび上がる。よくあるのが、「自分に起きている、いかんともしがたい問題を、恋愛に無理やり没頭、逃避することでごまかそうとしている」というものだ。
身に覚えがある人も多いのではないだろうか。ホントは仕事のこととか、家族のこととかで悩んでるのに、何かもう考えているうちに何が辛いのかわからなくなってしまい、たまりにたまったストレスを身近な存在である恋愛対象に、「嫉妬」という形でぶつけてしまうという愚かな作法。まあ一言でいうと、迷惑行為である。
そんな嫉妬の背景に100%存在するのが、「自分への自信のなさ」というやっかいなアレだ。
自分への自信に満ちあふれている時、人は決して病的なほどの嫉妬心にはとらわれない。何か、どこかで自信がないからこそ、「こんな自分が愛されるわけがない」と決めつけ、そしてそれが嫉妬心となり、時に相手を追いつめてドン引きされるわけである。「自分に自信のない私を、丸ごと受け入れて愛して」という要求は、恋愛が盛り上がっている時期だったらいいかもしれないが、そうでない時は、相当ハードな要求だ。迷惑なだけでなく、重い。相手にそれをされた時、自分がどう思うか考えてみればわかるはずだ。
さて、そんなふうに私は自分の嫉妬心を分析していたのだが、冒頭に書いたように、ある人と話していて、まったく違う角度からの「嫉妬」分析を聞き、何か、靄(もや)が晴れるようにスッキリした気分になったのであった。
嫉妬心をどう乗り越えればいいのか?
そう問うた私に、仙人のようなその人は、要約すると以下のようなことを述べた。
もともと人間には、「嫉妬」という感情はプログラミングされていないのではないか。なぜなら、乱交状態の動物などには、おそらく嫉妬心はないはずだからである。そう考えていくと、一夫一婦制のようなものが制度として発明されたあたりから、後天的に、秩序を乱さないために、生み出された感情ではないかと考えられる。
人類の歴史をさかのぼってみても、人間が動物のように乱交していた時代には、きっと嫉妬などという感情はないのではないだろうか。よって、「嫉妬する」ということ自体、本来の動物としては間違っているのかもしれない。
ということは、嫉妬心から解放されるもっとも手っ取り早い方法は、乱交時代に戻ることではないだろうか。
ざっくりとだが、仙人氏は、そんなことを言ったのである。まぁ一言でいうと、「乱交時代に戻れ」というあまりにもスリリングな提案である。
しかし、私はこの言葉に救われた。といっても「乱交しまくる」わけでは決してないが、うっかりジメジメした嫉妬心が頭をもたげそうな時、この言葉を思い出すと、自分をかなり遠くから客観的に見られる気がするのである。自分の中に芽生えつつある嫉妬心も、「一夫一婦制を維持させるために、後天的に刷り込まれたもの」だと思えば、なんというか、諦めがつく。つまらない自分のジェラシーが、人類の秩序維持のために与えられた感情の正常な作動、というような話に変わるからだ。そうして、「いざとなれば、乱交時代に戻ればいいのだ」という覚悟を持つ頃には、嫉妬心はかなりの確率で薄れている。
あなたは、あなたの嫉妬心とどのように付き合っているだろうか。
嫉妬心に巻き込まれる前に、飼い慣らすことができれば、無駄に消耗しなくてすむ。30代後半にして、やっとわかってきたことである。
次回は7月4日(木)、テーマは「いい嘘、悪い嘘」の予定です。