どのような法的根拠で書類送検されるのだろうか。
警察の主張はこのようなものだ。2012年に日本政府が購入する以前、魚釣島、北小島、南小島は埼玉在住の民間人栗原国起氏が持つ私有地であった。国が年間約2500万円の借地料を払ってこれらの島を借り上げており、地権者が国の関係者以外の上陸を認めていないので、微罪とは言え侵入を許すことはできない。なお、2012年以降は国有地に対する不法侵入ということになっている(久場島は現在も別の民間人の所有地である)。
では、上陸のみならず漁船で近寄ることまで禁じられるのはなぜか。ここで出されるのが「海岸から12海里(約22キロ)を漁船で越える場合、これに乗船できるのは漁業者のみ」と定められている「船舶安全法」である。仲間は市議会議員であって漁師ではない。
海保の警告を無視して仲間を尖閣に連れて行ったとなると、漁師の船長も八重山警察からの締め付けを食らう。石垣島に戻ってから、連日出頭を命じられ、一日中拘束されて事情聴取されるのだ。当然、その間は漁には出られない。船長は「仕事ができなくなるんですから、漁師は二度と仲間先生を連れて行こうとは思わなくなるだろうと、警察はそれを狙っているんです。それでも私は負けませんよ」と息巻いた。
実際、書類送検されても罰金を取られても、仲間とともにこの船長は船を出し続けており、仲間は現在も、いつ実行するのかを港湾警察や海保に宣言した上で渡航している。
尖閣に行き続ける理由は何か?
なぜこれほど憑かれたように尖閣上陸にこだわるのか。市議会議員の活動の枠を大きく外れているのではないか。かつて中山義隆石垣市長も「私としては国の許可を取った上で尖閣諸島へ上陸したいと思っています。ですから仲間市議の活動を支持というわけにはいきません」と語っていた。
この問いに仲間はこう答えた。「現場に行かなければ、海域を領有しようとする中国の本当の野望は分からない。止められても行かなければ、中国船におびえる石垣の漁民の本当の声を伝えることはできない。それらは本島や内地にほとんど知られていないのです」
政府が渡航するなと勧告した危険地域に、粛々と足を運び続けるジャーナリストの姿勢とシンクロする。
さらには「公約だからです」とも言う。
1994年に市議に立候補した際のマニュフェストは「実際に尖閣に上陸して調査してそれを国に伝える」というものであった。仲間は毎回、滞在中に、島外から持ち込まれて野生化したヤギの繁殖状況と、それが生態系に及ぼす影響を調べている。その姿勢は、尖閣に上陸したという事実のみを自身の政治プロパガンダとして喧伝する政治家とは一線を画す。
非暴力・直接行動で環境調査も行い、加えて反原発という理念は、国際環境NGOのグリーンピースと同じではないか、という問いは否定した。
「いえ、違うと思います。僕は行政区域上の問題意識から行動しているんです。尖閣については、これまで国に対して、漁民のための避難港や無線基地の建設、島内の生態系の保護を何度も要請してきました。石垣市の行政区域としての尖閣諸島に対する固定資産税の調査も行うべきです。しかし、誰も動かない。それなら、手をこまねいているのではなく、自ら上陸して問題提起すれば、誰かが動くだろうというのが、僕の考えです」
尖閣諸島をめぐり、石垣島と国とで認識に大きなギャップがあるのは厳然たる事実である。衝突事件直後の2010年10月、石垣市議会は固定資産税の課税調査などを目的に、全会一致で尖閣諸島への上陸を求める決議をし、国に要請した。しかし、2011年1月7日、政府は「これまでも上陸調査をせずに課税している」などの理由をあげて上陸を認めない回答を出している。国のダブルスタンダードは明確である。
市民の生活に右も左もない
意外なことに、仲間はこれら自らの活動の動機を語るとき(靖国神社を参拝した友人からもらったという菊の紋章のバックルを使ったベルトを愛用する男であるにもかかわらず)、いわゆる「愛国心」をその理由にしない。
「1968年10~11月に、国連のアジア極東経済委員会が調査した結果、東シナ海大陸棚、周辺海域において、膨大な石油が埋蔵されている可能性がある、という指摘があった。それを受けて、中国は目の色を変えるわけです。それまでは、中国も台湾も尖閣というのは知り得なかった。
石垣島は今現在、2万4473世帯、人口4万9480名(18年10月)。その半分が生活に困窮している。国民健康保険も破綻しかけているし、離婚率も県内ワーストクラス。しかし尖閣周辺から石油が出れば、石垣の財政が潤って、県税、市民税はゼロになる可能性だってある。だから尖閣にこだわるのは何も愛国心からではないんです。石垣市民の生活が楽になればいいという思いだけ。
僕のことを右翼だと批判する人もいますが、共産党議員であろうと、この問題としっかりと向き合ってくれるのなら、一緒に視察に行きますよ。市民の生活に右も左もないではないですか」
右翼か左翼かというイデオロギーの括り方で仲間を判断しようとすると見誤る。先述したように仲間は原発に反対している。
「自民党政権が原子力政策で原発を推進したのはよくなかった。沖縄なら太陽光と風力の発電で十分まかなえます」
文部科学省が福島第一原発事故後、子どもの年間被爆量の基準値上限をいきなり20ミリシーベルトに引き上げたときも、何の根拠も保証もないと憤慨していた。
東京都による尖閣諸島購入計画
その活動は常に一匹狼のスタイルを崩さずに行ってきた。日本会議からも、繰り返し入会の誘いを受けながらも断り続けている。故にその言動は組織や政局、政情に左右されない。
筆者は2012年に石原慎太郎都知事(当時)が、東京都が主体となって尖閣諸島を購入するという計画を発表した際、即座に仲間に問い合わせた。これは一体どういうことなのか? 地元ではどう見ているのか? 仲間は即答した。
「都知事のスタンドプレーです。地元では誰も反応していません。これは実現しませんよ。僕はそもそも石原慎太郎という政治家を信用していない」
かつて仲間は、石原の依頼で彼を尖閣へ案内したことがあった。ところが、いざ手配した船で島に接岸しようとなったときに石原はこれを拒否してきた。
「4.8トンの小さな船ですから、船べりよりも波が高い。それで、こんな船では島に近寄りたくないと言ってきたんです。結局彼は上陸していないんですよ」
尖閣購入計画はその後、仲間の予想したとおり実現には至らなかった。石原の発言自体、いたずらに中国を刺激し、日系企業に対する襲撃やデモを引き起こして、日本経済に大きな打撃を与えた。東京都は尖閣諸島購入のために寄付金を募り、14億円が集まったが、元来が国の専管事項であるため、実現しなかった。最終的には国が買い取り、寄付金は宙に浮く。領海には中国公船が以前にも増して姿を現すようになり、石垣島民にとって何ひとつ良くなることはなかった。
石原は、尖閣を愛国の象徴としてのみ利用して、政治家としての求心力を得ようとしたに過ぎなかった。そこに地元の漁民に対する目配りなどない。
「東京都が買うなんて、僕は最初から反対でした。本来は、国から石垣市に払い下げすべきです」と仲間はかたる。
政府を警戒しても、人と文化を憎みはしない
では昨今の日中関係について、現場ではどう感じているのか。海上で中国漁船と渡り合ってきた仲間の見立てによれば、領海のボーダー付近での友好ムードは出てきているという。
「常に、隙あらば領有を狙う怖さを感じさせる国ではありますが、最近は変わってきました。南小島と魚釣島の間にいつもいた船が、僕が行くといなくなるんです。僕が乗っていると知っているかはどうかはわかりませんが。遠目ながら、船員が笑顔を見せることもあります」
友好ムードを感じさせる動きはほかにもある。今年(2018年)の8月5日、仲間は17回目の上陸を果たそうとしていた。しかし、出航する直前に防衛省、海上保安庁が事務所に来て、今回だけはやめてくれないかと懇願されたという。
「行かないと決めた1週間後に、今度は中国漁船の出航を中国政府が止めたという情報が入ってきました。おそらく外交交渉だったんでしょう。中国が、日本の漁船を出航させないでほしい、その代わりに中国の漁船も出させないから、と止めに入ったんだと感じました。中国政府も日本政府と仲良くしようと言う意図が見えますよ」
冒頭で述べたように、仲間は中国政府の脅威を語っても、嫌悪を語ることはない。友好的な動きが見られれば率直に評価する。今、沖縄本島でも発せられ始めている、中国に対するヘイトスピーチやフェイクニュースのことも、徹底的に嫌っている。
尖閣諸島
南西諸島西端に位置する魚釣島、北小島、南小島、久場島(黄尾しょ)、大正島(赤尾しょ)、沖の北岩、沖の南岩、飛瀬からなる島々の総称。総面積6.3平方キロメートル。