右翼≠保守≠排外主義
塵芥の声として以前から取り上げたかった人物がいる。石垣市議の仲間均である。「尖閣諸島を守る会」の代表世話人でもある仲間は、尖閣諸島に上陸すること16回、そのことによる書類送検13回。自他ともに認める生粋の右翼だ。2018年10月21日に那覇市長選が行われ、「オール沖縄」が押す城間幹子氏が圧勝したが、仲間はこの選挙で自由民主党、公明党、日本維新の会、希望の党が推薦する翁長政俊氏の応援に来ていた。開票と同時に城間候補に当確が出るほどに大差がついた選挙結果は仲間にすれば惨敗であり、いずれもオール沖縄推薦者が当選した県知事選、豊見城市長選から数えれば3連敗とも言えた。しかし、筆者は石垣島で仲間を熱烈に支持する漁民の人々を知っている。離島のナショナリズムを知る上で、仲間の存在は欠かせない。
そしてもう一つ、仲間は右翼ではあっても、差別主義者ではない。仲間が「尖閣諸島を守る」のは言うまでもなく、「中国から」なのだが、仲間は中国政府に対する激烈な抗議はしても、中国人に対する差別煽動行為やヘイトスピーチを心から憎み、筆者の知る限りいっさい排外主義の毒を吐かない。日の丸を片手で持ち、愛国を理由にヘイトデモを行ったり、匿名性(実際はそうではないが)に隠れて在日コリアン弁護士への懲戒請求をしたりするようなレイシストたちとは確実に異なる。仲間の声を聴くことは、右翼と保守と排外主義の区分けをきちんと考える意味でも重要ではないかと思うのだ。
安全保障問題と選挙
那覇市長選の翌朝、待ち合わせの場所に仲間は現れた。石垣島に帰る直前、開いているカフェも少ない早朝の時間帯故に、とりあえずハンバーガーチェーン店に入る。かつて川崎の溝の口で空手道場を開いていた剛柔流の使い手は、アメリカンを注文するとぷくりと膨れ上がった拳ダコを覆うように腕を組んだ。
先述した通り、応援した候補者は惨敗である。それでも快活に笑った。
「ここまで差がつくと何か言葉もありませんね。自民党は最後の最後まで、辺野古の埋め立ての問題を争点にしたくないと渋っていた。でもそれではだめです。沖縄の経済だ、補助だ、金を与えるんだなんて、そんなのはどうでもいいんですよ。まずは日本の国が平和で、県民が安寧に暮らせなければならない。そのためには基地問題も、有権者に問いかけるべきところは包み隠さず問いかける。その辺りをきちんと整理して、選挙に臨んだほうがいいと僕は思います」
ここ数年、自民党は選挙において、基地も原発もTPPも、争点とすることを避けるか、もしくは本心とは逆の公約を掲げて戦ってきた。仲間はそれを姑息だと言う。
「僕はこれまで、辺野古のゲート前で日米安全保障が必要だという持論を2回演説しました。聞いてくれる人も多くいましたよ。僕自身の選挙運動でも、逃げも隠れもせずに、石垣島に自衛隊は必要ですと主張して、それでも何度も当選してきている。だから、自民党も正面切って安全保障の議論をするべきです」
ところで自衛隊と言えば、イラクや南スーダンでの活動を記した日報を隠ぺいしていた事実が明るみに出て問題視された。また、自衛隊を統制する立場にある政府はといえば、現在の安倍晋三政権下では、行政にとって一番重要な公文書の改ざんが平然となされている。嘘で固めたままの政権運営では信頼を勝ち取れないではないか。そう問えば、何のためらいも見せず同意した。
「改ざんはよくない。それは僕も同感です。自衛隊や原発事故についても堂々と真実を公表すべきです」
“変人”右翼との出会い
2011年に福島第一原発の事故が起きてしばらくしてから、「石垣島に、原発に反対して、福島の子どもたちを自分の地元に疎開させようとしている右翼がいる」という情報が聞こえてきた。その“右翼”が仲間だった。初めて会いに行ったのは2012年1月、松も取れない正月3日に15回目の尖閣上陸を果たしたという、その直後であった。悪名は無名に勝ると言うが、仲間自身が「うちに来るなら、タクシーに乗って下さい。名前を言うだけで、『ああ、あの変人のところか』と言って僕の事務所に連れてこられますよ」という通り、石垣島を訪ねると、島民は誰もが彼を知っていた。ただし、その評価は真っ二つに割れていた。「米軍基地問題に対する彼のスタンスには絶対に賛同できない」「皆が止めるのになんでわざわざ尖閣まで向かうのか」「右派なのに空気を読まない。市議会でも保守の市長とガンガンやり合うし、浮いている」という否定的な声が多くある一方で、漁師の中には熱烈な支持者が何人もいた。
仲間は石垣市議会議員に当選した翌1995年から、尖閣への上陸を続けている。ひとくちに尖閣諸島上陸と言っても決して容易な行動ではない。石垣の港から尖閣で最も大きな魚釣島まで約170キロ。漁船で行けば7~8時間、時化になると10時間かかる。明るい時間に上陸しようとすれば当然、夜に航海することになる。
仲間を何度も尖閣諸島に運んでいる漁船の船長は、中国漁船に囲まれたときの体験をリアルに語った。「尖閣はマグロもカツオも豊富で本当に良い漁場なんです。でも、漁に行くと200隻近くの中国船が現れて動けなくなる。不気味で怖いですよ。それなのに地元では、尖閣の問題は国が対処すればいいと言って、私たちの声なんか誰も聞いてくれません。そんな中で仲間先生だけですよ、身体を張って行動してくれたのは。それで感心して自分も協力をしているんです」
中国漁船衝突事件
そんな中、2010年9月7日に、尖閣諸島付近で海上保安庁の巡視船と中国漁船が衝突する事件が起こった。日本領海からの退去を命じた「よなくに」と「みずき」に対し、中国漁船は体当たりをして船体を破損させたのである。海保は公務執行妨害で船長を逮捕し、石垣島に連行して書類送検した。これに対して中国政府は、尖閣諸島は中国固有の領土であるという主張から、日本の司法措置に抗議。日本政府は最終的に日中外交関係を考慮し、仙石由人内閣官房長官(当時)が容認するかたちで、9月24日に中国人船長を処分保留で釈放するに至った。
仲間はこれに激怒した。
「これまで不審船が石垣の漁民達をどれだけ怖がらせてきたか。日本の警察は我々が尖閣に上陸すれば書類送検して罰金を徴収する。ところが、不法に上陸した中国人は逮捕もせずに入管法で追い返すだけ。あげくに海保の船に体当たりしてきた中国船の船長は無罪放免する。これが法治国家のすることですか」
尖閣上陸の代償
実際、上陸常習者で言わば“札付き”の仲間が尖閣に向けて船を出すと、海保の船が追ってくる。「行くな!」という警告を拡声器や無線で受けながら、高い波の中を船酔いと闘いつつ進むのだ。
なぜ、日本の領土と主張する尖閣諸島に日本人が上陸することを、日本の公権力は止めようとするのか。
尖閣諸島
南西諸島西端に位置する魚釣島、北小島、南小島、久場島(黄尾しょ)、大正島(赤尾しょ)、沖の北岩、沖の南岩、飛瀬からなる島々の総称。総面積6.3平方キロメートル。