そして未成年難民の問題。国連機関の発表ではバングラデシュに逃れて来た難民の内、孤児になってしまった子どもが約2万4000人いるという。この両親を亡くした子をさらってはインドの組織に売り飛ばすという犯行が横行し始めていることだ。インドで摘発されたコンテナを開けたら、中には臓器を取られた子どもの遺体がたくさんあり、皆、ロヒンギャの子どもだったという。バングラデシュの首都ダッカから人身売買ビジネスに携わるマフィアの存在が知られるカルカッタまでは空路で1時間程度である。この事件をきっかけにしてバングラデシュ政府はキャンプの警備を警察から軍に切り替えたと言われている。
実際に取材の最中に誘拐騒ぎがあった。12歳の少年を4人組の男が袋に押し込んで拉致しようとしたところ、少年が暴れたことで犯行が発覚したのである。バングラデシュ軍の兵士により、男たちの一人は確保、少年も保護された。
もう一つの問題はアルカイーダや「イスラム国(IS)」からのリクルーターである。貧困につけこむかたちで高額なドル紙幣を片手に「良い仕事がある」との甘言でシリアに誘い、かの地でイスラム過激派の兵士にする。そんな現象がかつて、ムスリムが多数派を占めるコソボやボスニアでも起きていた。こういった事件が続けばロヒンギャもまた過激なテロリストというレッテルを貼られかねない。「テロが正しいとはコーランには書いていない。『イスラム国』に行くことが我々のジハードではない」といった啓蒙がキャンプ地の各所でなされていた。キャンプへ支援に赴いた在日ロヒンギャのアウンティンも同様のスピーチを繰り返した。
願いは故郷への帰還
特筆しておきたいのはバングラデシュの献身的な働きである。ロヒンギャ難民を受け入れるという宣言をしてからは、キャンプの用地を確保し、その建設に邁進している。軍もまたキャンプの入り口はしっかりとガードして不穏な動きに目を光らせ、外部からの難民への接触を安易にさせない。1人当たりの名目GDPで比較すれば、この数年でミャンマーを追い抜いたとはいえ、バングラデシュはアジア25カ国中22位と、明らかに貧しい。にもかかわらずこの人道的な措置には驚嘆する。
そして忘れてはいけないのは問題の大元はバングラデシュではなく、ミャンマーで起こっているということである。
ラカイン州での人道危機を一刻も早く終結させなければこの悲劇は終わらない。筆者が聞いたロヒンギャ難民のほとんどの希望が第三国定住ではなく、「ラカイン州に戻ること」であった。
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