「貯金しなさい!」という両親の声に耳を貸さずに使い切ってしまい、「お前の財布のひもは、本当に緩いな…」と、呆れられたものだった。
臨時収入があった場合、どれだけ消費に回すのかという「財布のひも」を示すのが、「限界消費性向」だ。「限界」とは「追加された…」という意味で、新たに増えた所得の中で、何%が消費に回されるかを示す。10万円の臨時収入があり、その内の8万円を旅行などに使い、残りの2万円を貯金した場合、限界消費性向は0.8(=8万円÷10万円)となる。
限界消費性向は、所得が低い人ほど大きく、高額所得者ほど小さいとされている。所得が低いと臨時収入の大半を使ってしまうが、高額所得者は収入に余裕があることから、臨時収入があっても追加的な消費に回す部分は少なく、貯蓄や投資などに使うことが多いというわけだ。
限界消費性向は、景気の状況によって変化することもある。景気がよく、将来に対する不安が少ないと、限界消費性向が大きくなり、消費が拡大する。消費が拡大すると、景気が一層よくなり、これが所得のさらなる増加を生み、消費がより大きくなるという、好循環につながる。限界消費性向が大きくなり、「財布のひも」が緩くなることで、景気拡大が加速するというわけだ。
一方で、景気が悪くなると、不安心理が広がって限界消費性向が低下、消費の減少→景気の悪化→所得の減少という悪循環に陥る。「財布のひも」が締められることで、景気がさらに悪化してしまうのだ。
さらに、限界消費性向は、政府の景気対策の効果にも関係する。
消費はGDP(国内総生産)の6割を占め、その増減は景気動向を大きく左右する。このため、景気が悪化すると、政府は減税や給付金の支給などによって所得を増加させ、消費を増やす政策を打ち出す。しかし、限界消費性向が低いと、所得をいくら増やしても貯蓄に回されるだけで消費は増えず、景気を回復させる力が弱まってしまうのだ。
日本の限界消費性向は0.7程度と言われていた。しかし、景気対策の一環として1999年に配布された総額6194億円の地域振興券の場合、消費に回されたのは32%だったと政府は推定している。地域振興券の限界消費性向は0.32だったことになる。
また、2009年に打ち出された総額2兆円の定額給付金について、民間のシンクタンクは限界消費性向を0.2程度と予測している。限界消費性向がこの程度なら、「財布のひも」が固すぎて、消費を増やそうという景気刺激策は、ほとんど役に立たないことになる。
一方で、アメリカの限界消費性向は、日本に比べてかなり高く、0.7~0.9程度とされている。「財布のひも」が緩いアメリカでは、消費を増やす景気対策が、日本よりはるかに効果を上げている。
消費者の「財布のひも」を示す限界消費性向。その水準は、政府の景気対策を左右する重要な意味を持っているのである。