個人の懐具合は、収入や支出だけではなく、預金や株式、不動産などの資産、さらには住宅ローンなどの負債などにも左右される。収入や支出などは「フロー」、資産などは「ストック」と呼ばれ、それぞれに重要な役割を担っている。
同じことは、企業業績、さらには国全体にも当てはまる。フローとはその言葉の通り、経済活動の「流れ」を示すもので、ある一定期間の生産や収入、支出などを集計したもの。個人の場合、毎月の収入と支出がフローとなる。企業では売り上げや材料費、人件費などの支出、それらを差し引いた営業利益(損失)や経常利益(損失)など、ある期間にその企業が行った経済活動を集計したものがフローであり、決算では損益計算書に、その詳細が記載されている。
国全体のフローを示しているのが、GDP(国内総生産)だ。消費や設備投資、輸出と輸入に政府の支出と、国内の経済活動すべてを3カ月ごとに集計している最も重要なフローの指標となっている。
一方、ストックの指標は、フローのように一定期間の経済活動を集計するのではなく「ある時点」での資産状況を示すものだ。毎月の収入がフロー、ある時点での預金残高はストックとなる。
企業の決算では、資産や負債の状況を示すバランスシート(貸借対照表)にストックが示されている。そこには、預金残高や保有している不動産の価格などが記載されているが、それらは「決算日」という「ある一時点」での合計なのである。
ストックには、フローにおけるGDPのような国全体の状況を示す指標は存在しない。株式などは集計できても、個人や企業、さらには政府が保有している多様な資産のすべてを把握するのは極めて困難な上に、株価や不動産価格などは絶えず変動していることから、それらを合計するのは事実上不可能なのだ。
そこで、国レベルでのストックは、分野別に発表されているものから総合的に判断せざるを得ない。株式市場全体の動きを示す「日経平均株価」や「東証株価指数」、「公示地価」や「路線価」などの不動産価格を示す指数、さらには外国為替相場も、ストックの状況を示す指標の一つと考えられる。国全体のストックは、こうした様々なストックの指数から、読み取ることになる。
経済状況を読み取る上で重要な2つの要素であるフローとストックだが、相互に密接な関連がある。売り上げというフローが増えれば、預金など企業のストックは増加する。一方で、保有している株式の価格が急落して損失が発生すると、これを埋め合わせるために、経常利益というフローが減少し、場合によっては赤字になるという具合だ。企業の業績の悪化は、売り上げの減少や人件費上昇などのフローの問題によっても、株価や地価の下落というストックの問題によっても引き起こされる。
国レベルの「不況」も同様だ。かつて、不況の多くは、消費の低迷による売り上げ減少や生産活動の低下などが原因の「フロー型」だった。しかし、近年では「ストック型」が増えている。「バブル崩壊」に伴う不況は、株式などのストックの暴落が、収入などのフローに波及したもの。サブプライムローン問題が引き起こした金融危機も「ストック型」だった。
経済にはフローとストックの2つの側面がある。懐具合が寒いのは、収入が減っているのか、預金が減っているのか…。どちらか一方だけを見ていると判断を誤ることになる。フローとストックの双方をしっかりと把握し、適切な対応をすることが求められているのである。