利益至上主義の社長が招いた事態は、「市場の失敗」の一例だ。市場の失敗とは、市場メカニズムがうまく働かず、弊害を生み出すこと。
市場メカニズムは、経済の根幹を成す仕組みである。自由な競争によって価格が変動、「買い手」(需要)と「売り手」(供給)が調整されて、必要なものが必要なだけ供給される。市場メカニズムは自動的に経済効率を高めてくれるので、市場に任せておけば安心というわけだ。
しかし、市場メカニズムは万能ではない。自由な競争が行われず、独占状況になると、消費者が不当に高いものを買わされる弊害が発生する。
また、利益の出ないものは、十分に供給されなくなる。その典型が警察や国防などに代表される公共財だ。公共財はお金を払わずに誰でも利用できる。したがって、採算が取れず供給は不十分となる。警察などを市場メカニズムに任せてしまうと、警察官のなり手がいなくなり、犯罪が横行することになりかねない。これも市場の失敗であり、福祉などの社会保障が十分に提供されないことも、市場の失敗に含まれると言えるだろう。
「バブル」のように、市場メカニズムが暴走して、経済に混乱をもたらすのも市場の失敗だ。近年アメリカで発生した「サブプライム問題」も、市場の失敗の典型的な事例と考えられる。
「市場の失敗」を回避するには、政府などの第三者の介入が不可欠となる。十分な公共財を提供できないという市場の失敗は、政府が代わりに公共財を提供することで解消が図られる。採算を考えずに公共財を提供できる唯一の存在が政府であるからだ。市場メカニズムが異常な動きを示していないかどうかをチェック、是正措置を取るのも、政府などの公的機関の役割と考えられる。
しかし、市場の失敗は、市場メカニズムを否定するものではない。市場メカニズムは多くの利点を持ち、これなしには経済活動が円滑に行われないことは、社会主義経済が破綻したことでもわかる。「失敗」が指摘されるということは、一方で大きな「成功」があるからに他ならない。
したがって、市場の失敗を回避するために政府が介入し過ぎると、効率が悪化するなどの弊害が生まれてしまう。これが、「市場の失敗」に対して、「政府の失敗」と呼ばれる。
知人の会社では、会長の座にあった社長の父親が「オレの責任でやる」と事業の実施を指示、会社の悪評は解消されたという。
市場メカニズムは有効だが万能ではない。その欠点をしっかりと認識した上で、市場が失敗しないように、経済全体で努力することが必要なのである。