DREAMS COME TRUE(ドリームズ・カム・トゥルー)の「未来予想図II」(作詞・吉田美和)は、人生を共に生きていこうとする二人を歌ったラブソング、結婚式の「定番」で、先日出席した結婚式でも流されていた。隣にいた女性たちが「あの二人なら、思ったとおりになるね」と羨ましそうに話しているのを聞いて、「考えが甘いな、思ったとおりになんてならないよ」と冗談半分で言ったら、「現実的ね!」と冷たい視線を浴びてしまった。
「未来予想図」は、思ったとおりにかなえられるのか? 経済学でも同じような問いかけが行われてきた。「期待」が生み出す経済効果についての論争だ。期待とは、人や企業が経済の将来像を思い描くこと。「景気がよくなる」との期待が広がれば、設備投資の拡大や、雇用の増加などの対応を行う企業が増加、消費に積極的な姿勢も出てきて、景気が上向く可能性が出てくる。しかし、「景気が悪化する」との期待(予想)が広がってしまうと、企業行動は慎重になり、消費も控えられて、景気が本当に悪化してしまう。期待によって経済の「未来予想図」が描かれることで、それに対応した行動が起こり、思ったとおりの方向へ進んでしまう、というわけなのだ。
期待がもたらす経済効果については、長い間軽視されてきたが、近年では理論的な裏付けも進み、政策に活用されることも多くなった。「アベノミクス」もその一例だ。安倍晋三首相は日本銀行と連携し、デフレ脱却に向けて「2年で2%の物価上昇」という未来予想図を提示した。デフレ脱却に向けた政策手段が手詰まりとなる中、人や企業の期待を刺激することで、事態の打開を図ろうとしたのである。
安倍首相が明確で強固な未来予想図を示したことで、「デフレが終わり、インフレが始まるかもしれない」という期待が高まり始める。インフレになれば、株価は上昇、為替相場は円安になると予想されることから、株式投資の増加と円売りが広がった。この結果、株価上昇と円安が現実のものとなり、デフレ脱却の兆しも見え始めている。デフレ脱却という未来予想図が、期待の高まりで現実化しつつあるわけだ。
しかし、期待がいつでも思いどおりの効果を上げるわけではない。人々が期待を抱くことで、一時的に経済効果が生まれても、持続できなければ目的は達成できない。「高校野球で『甲子園を目指そう』と誓ったチームが、必ず出場できるわけではない」と言ったのは日本銀行の関係者だという(「週刊エコノミスト」2013年9月10日号)。アベノミクスの当事者の中にも、期待がもたらす効果に懐疑的な人も存在しているのである。
また、政府や日銀が示す未来予想図が人々の共感を得ることも必要だ。「インフレになる」という未来予想図を掲げられても、人々が「デフレが続く」と思い続けてしまえば、期待の効果は得られない。結婚した二人が同じ未来予想図を描けなければ、破局を迎えてしまうのと同じだ。
しかし、期待が経済に一定の影響を与えるのは間違いない。「どうせダメだよ」という冷めた考え方が、デフレ脱却を阻止してきた側面も否定できない。結婚式を挙げた二人が、同じ目標に向かって強い意志を持ち続けることが、未来予想図をかなえるために必要なこと。アベノミクスで描かれた未来予想図に向けて、日本全体で期待を高めて行ければ、「思ったとうりに かなえられてく」こともあり得るだろう。