「過剰流動性」は、バイキングで並べられた食べきれないほどの食事だ。「流動性」とは貨幣のことで、経済活動に必要な量を超えて供給されているのが過剰流動性。中央銀行は、経済状況を見ながら貨幣を過不足なく供給しようとしている。もし、必要以上の貨幣が供給された場合には、インフレになって物価が上昇する。経済が貨幣を食べすぎる結果肥満になり、血圧に相当する物価が上昇してしまうのだ。反対に貨幣の供給量が不足するとデフレに陥る。貨幣が不足するため、人々は空腹となってやせ細り、血圧も低下して行く。
デフレに苦しんできた日本では、2014年3月に日本銀行総裁に就任した黒田東彦氏が、貨幣供給量を2年間で2倍にするという「異次元の金融緩和」に乗り出した。貨幣を載せた皿を2倍に増やすことで、デフレでやせ細っている日本経済を太らせようとしたわけだ。
すでに実行されていた「ゼロ金利政策」によって、バイキングの料金はゼロで、「無料で食べ放題」だったにもかかわらず、日本国民の食欲は一向に高まらなかった。日本銀行が供給した大量の貨幣の多くが民間銀行に滞留したままで、経済活動には利用されずにいた。バイキングで並べられた量の料理が、手つかずで残されるという過剰流動性の状態が続いてきた。
こうした中で、供給された貨幣を食べ始めたのが一部の投資家だった。彼らは貨幣を経済活動には使わずに、主に株式市場に投資する。その結果、日経平均株価が17年ぶりに2万円台乗せとなるなど、「バブルではないのか?」と懸念されるほど株式市場は活況を見せる。これが「過剰流動性相場」で、大量に並べられた食事を食べ続けた結果、株式市場だけ太ってしまったというわけだ。
過剰流動性はアメリカでも指摘されている。07年のリーマン・ショックで「大けが」を負ったアメリカでは、中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)が大量の貨幣を供給する「量的緩和策」を展開してきた。体力を回復させるために、貨幣を乗せたお皿の数を大幅に増やしたわけだが、その多くが株式市場や不動産市場などに流入し、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価が史上最高値圏になるなど、本来の水準を超えた過剰流動性相場になっていると指摘されている。
アメリカの場合、リーマン・ショックの傷もほぼ癒えて、景気が回復基調にあることから、FRBは「量的緩和策」を14年10月に終了させた。そして現在は、「ゼロ金利政策」も終了させて、バイキングを「有料」にするタイミングを探っているのである。
一方の日本は、デフレ脱却と景気回復が見通せず、「異次元の金融緩和」をさらに強めることが検討されている。バイキングの皿を、もっと増やそうとしている。しかし、国民の食欲が高まらない中では、供給された貨幣がさらに株式市場に流れ込み、「バブル」を膨らませる恐れが出てくる。
1980年代のバブル経済も、過剰流動性が原因だった。貨幣が山盛りになっているバイキングの皿に投資家たちが殺到し、「バブルの宴」を始めているのが日本の現状なのだ。