「もし、○○していたら…」、「あの時、別の選択をしていれば…」。人生や仕事には、数多くの「たら」「れば」がある。「機会費用」は、その損得を計算するものだ。
機会費用は、ある選択を行ったことによって、得ることが出来なかった経済的価値を表す。知人女性は、元彼と結婚していたら10億円の資産を共有できたと考えられる。しかし、現実には元彼ではなく今の夫を選んだので、その機会費用は10億円となる。実際に出費があるわけではないが、手に入れられたはずのお金が手に入らず、損失が発生した、失ったという意味で「費用」という言葉が使われている。
費用は小さいほうが望ましい。そこで、機会費用が小さくなるように選択を行うことが「お得」となる。今の夫と結婚することによる機会費用は10億円、元彼と結婚した場合の機会費用は100万円なので、機会費用の小さい「元彼との結婚」を選択したほうが「お得」となる。
機会費用の考え方は、様々な場面に応用できる。ある学生が日給5000円のアルバイトを休み、1500円を払って映画を見たとする。この場合の学生の持ち出し分は、映画代1500円に、アルバイトを休んだことによる機会費用5000円を加えた6500円となる。したがって、6500円分の価値がないと、その映画を見るべきではない、ということになるわけだ。
これを企業に当てはめてみる。ある企業が売り上げ10億円の製品の製造を止め、3億円の新規投資を行って新製品投入を検討しているとする。この場合の機会費用は10億円だから、新商品の売り上げは新規投資額と機会費用を合わせた13億円以上になる必要がある。
時間当たり10万円を売り上げるセールスマンがいたとしよう。タクシー代1000円を払えば1時間節約できるとするなら、セールスマンはタクシーに乗って時間を節約したほうが「お得」だ。タクシー代を節約することで発生する機会費用は10万円で、タクシー料金1000円よりはるかに大きいからで、多忙な企業の経営者が自家用ジェットを持つ理由もここにある。
機会費用は目に見えないことから、しばしばその存在が忘れられる。長時間の会議がなくならないのも、会議をしている間に失われるビジネスチャンス、つまり機会費用を認識していないからだ。「たら」「れば」を計算する機会費用は、意思決定をする上で忘れてはならない要素なのである。