経済にもカンニングが許容されることがある。「転嫁カルテル」だ。「カルテル」は、業者が密約を交わして価格などを設定するもの。競争が行われず消費者が不利益を被ることから独占禁止法で禁止され、公正取引委員会が監視の目を光らせている。しかし、その例外が転嫁カルテルだ。
転嫁カルテルは、「転嫁」という言葉が示す通り、消費税の導入や税率引き上げの際に、増税分をそのまま価格に上乗せ(転嫁)すること。業者が価格を相談して決めるカルテルではあるが、事前に承認を得ることで独占禁止法の適用除外となる。
転嫁カルテルが認められるのは、中小零細業者の救済のためだ。消費税が引き上げられた場合、増税分はそのまま価格に反映されるべきものだが、立場の弱い中小零細業者の場合、増税分を価格に上乗せできず、過剰な負担を強いられることがある。そこで、増税分が平等に価格に転嫁されるように、業者間でカルテルを結ぶという仕組みだ。事情があって勉強できなかった同級生を助けるためのカンニングが認められたように、中小零細業者を救うのが転嫁カルテルであり、先生である公正取引委員会もおとがめなしとなる。
本来は違法であることから、転嫁カルテルの適用は、特別措置法に基づいたルールが定められている。認められるのは中小零細業者が全体の3分の2以上を占める場合のみで、事前の届け出が必要となる。また、適用されるのはあくまで増税分だけ、製品価格そのものについてのカルテルは認められていない。
政府は2014年4月の消費税引き上げに際して、転嫁カルテルを認める決定をしたが、そこにはデフレ対策の意味合いもあった。消費税の引き上げ分を価格に上乗せできないと、業者がコストカットに走りデフレ圧力を生んでしまう。そこで、転嫁カルテルというカンニングを容認、物価というテストの点数の底上げを図ったというわけだ。
消費税の引き上げに際しては、「表示カルテル」も認められた。税額の表示方法を「税別」に統一するといったカルテルで、転嫁カルテル同様に、公正取引委員会に届けることによって実施が可能となっている。
家が火事になって勉強ができなかった同級生は、カンニングをさせてもらったことで落第を免れたが、こうした状況がなければ、許されなかっただろう。カルテルも公正な競争を阻害するものであり、決して望ましいことではない。転嫁カルテルが認められたことは、日本経済が健全な競争を進めることができない苦境にあることを示すものとも言えるだろう。