完全失業率と並んで、雇用情勢を把握する上で重要なデータが、有効求人倍率である。こちらは、職を求めている人1人に対して、何人分の求職があるかを示すもので、完全失業率と同時に、厚生労働省から発表される。
有効求人倍率が1倍なら、条件さえ合えば求職者すべてが就職できることになるが、1倍を下回れば、絶対数としての求人件数が不足し就職難、反対に1倍以上であれば、人手が足りず就職は比較的容易と考えられる。
完全失業率も有効求人倍率も、旅客機の座席と空席待ちの関係に置き換えてみると、理解しやすくなる。雇用数が日本経済という巨大な旅客機の「座席数」、労働力人口が旅客機に「乗ろうとしている人数」だ。すると、完全失業率は旅客機に乗りたくても乗れない人の比率、有効求人倍率は、空席待ち1人に対して、空席が何席あるかを示すものと考えられる。
しかし、完全失業率も有効求人倍率も、あくまで数字の上でのこと。仕事を求める人と、実際に求められている仕事の内容にはズレがある。職種、待遇、年齢、経験など、仕事には様々な条件がある一方で、働く側にも様々な事情や条件がある。「エコノミー席」しかないのに、高収入で条件の良い「ファーストクラス」に固執する人や、「窓側じゃないと嫌だ」とダダをこねる人もいて、両者の条件を一致させるのは容易ではない。
こうした状況は、雇用のミスマッチと呼ばれるが、その結果、自分の求める座席が空くまで、ロビーで待ち続ける人も出てくる。こうしたことから、有効求人倍率が1倍を超えても失業者は存在し、どんなに人手不足になっても、完全失業率が0%になることはないのである。
旅客機の座席数(雇用数)は、景気の状況に応じて変化している。これが雇用調整で、景気が悪化すると企業は人員を削減、雇用という座席が減少する。この結果、旅客機に乗れない人が増えて完全失業率は上昇、有効求人倍率は低下する。反対に景気が良くなると、座席数が増えて完全失業率は低下し、有効求人倍率は上昇、空席待ちの人数は減少するのである。
しかし、景気の良し悪しが雇用に反映され、座席数が変化するまでには、大きな時間差が存在する。景気が悪化すると、企業はまずコスト削減などに取り組む。その一方で、雇用については、給料を下げて、2人がけの座席に3人を座らせるなどして、可能な限り座席数を維持してきた。終身雇用制を基本とし、雇用の流動性が低い(雇用数の変化が少ない)という日本特有の事情が、その背景にあるのだ。
しかし、バブル崩壊後の景気低迷では、容赦のない雇用調整が行われた。企業は雇用という座席を取り外し、乗客とともに飛行機の外に次々と放り投げた。途方に暮れた多くの人々は、ハローワークという空港のロビーで、空席待ちの辛い日々を送ることになってしまったのだ。
デフレ不況によって、日本の完全失業率は急上昇、有効求人倍率は1倍を大きく割り込む状況が続いた。その後の景気回復で、企業は雇用を増やし、日本経済という旅客機の座席数は増え始めたが、増えたのは若年層向けの座席ばかり。空席待ちをしている中高年用の座席は、一向に増えていない。こうした「雇用のミスマッチ」を解消し、旅客機に乗りたい人全員が搭乗できるようにするには、どうすればいいのか。
数字の上では雇用情勢の改善が進んでいるものの、依然として、多くの課題が残されているのである。